5ちゃんねる ★スマホ版★ ■掲示板に戻る■ 全部 1- 最新50  

■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

託詩所

1 :名前はいらない:2008/10/06(月) 15:51:29 ID:pvc+YItP
書きかけの詩を置いていってください
タイトルだけや、一行だけでもいいです
それを誰かが拾って立派な詩にしてあげてください

2 :名前はいらない:2008/10/07(火) 03:38:37 ID:UENbIzlQ
箱庭の中のジレンマ スポイトで吸い上げる血
鈍く 浅く 罪人の歩みのようにやってくる 眠り
理由は外の翼の奥に 光


3 :名前はいらない:2008/10/08(水) 15:28:15 ID:AqvyeiNQ
タイトル【思い出の地図】

昔フッと浮かんでいつか書こうと思いながら、いかにもクサい内容に
なりそうな題名なんでそのまま放置してた

4 :名前はいらない:2008/10/09(木) 02:35:39 ID:jplcFn7P
>>1-2立派なのは無理ぽ。翼 と 血 でイメージシテミマシタ。新スレにぎやかしってことでご勘弁。


5 :名前はいらない:2008/10/09(木) 03:32:16 ID:jplcFn7P


箱庭の中のジレンマ スポイトで吸い上げる血
鈍く 浅く 罪人の歩みのようにやってくる 眠り
理由は外の翼の奥に 光
プテラノドンのかなしみは
瓦礫の下に埋積もれた自販機のなか
ポリプロピレンの袋とじ ラインにのって閉じられた
ホチキスの針は赤く錆び
時折 大気の破れる音に カタンと身じろぐ古臭さ
たとえば酒屋の棚の奥
火薬みたいな埃にまみれた
それをひとつ 葡萄酒を一本。
                                                            
おまえたちの閉塞は
ねじ巻き取られた缶の蓋
アクリル絵の具の滲むような黄昏に溶ける
久しく解放された缶詰の歓喜はロンド
なお整然と列編む鰯の兵隊よ
敬意を表し黒オリーヴとケッパーを授けよう
銀鱗の戦艦は天火の海へ進む、進む
私は尋ねた
くつくつと焦げてゆくのは愉しいかい?
くつくつくつ ああ愉しいよ、
くつくつ は 愉しいのかい?
くつくつくつ 愉しいねえ、
くつくつ 私の翼
くつくつ 油まみれだ
くつくつくつ 缶の中
くつくつくつ 愉快に焦げる。
                    


6 :2:2008/10/10(金) 02:33:43 ID:6MMt8upc
なかなかシュール
かつ興味深い
詩になり
感謝


7 :名前はいらない:2008/10/10(金) 07:58:08 ID:rnFa/Qxi
トトロ「SAYAKAってアホなのか?」
メイ「そうなんじゃね…。」

8 :名前はいらない:2008/10/12(日) 02:08:06 ID:qLGu9Mct
トトロ「SAYAKAってアホなのか?」
メイ「そうなんじゃね…。」
サツキ「アハハー」
トトロ「ヒマだな…」
メイ「なんか食いいく?」
トトロ「なに?…吉牛とか?」
メイ「あんたそればっか」
サツキ「アハハハー」
トトロ「いーじゃねぇか。牛すきなんだよ」
メイ「別にいーけどォ、、」
トトロ「いーけどなんだよ」
メイ「彼氏が超メタボってやばくね?」
トトロ「うるせーよ。都会はストレス溜まんだよ。食わねーとやってられ‥」
サツキ「っうえっうえっぅえぇ」
メイ「あーもう、ねーちゃんキメるとすぐこれなんだから」
トトロ「軽い中毒だろこれ…」
サツキ「あタし田舎に帰るんだヨ!いましぐ帰ってェ母さんといっちょにお風呂に入るの!!!」
メイ「はいはい、母さんはもういないからねー。独りで入ってねー」
トトロ「ちょ、おまえ冷たくね?」
メイ「いつもこーなんだもん。やってられんわ」
トトロ「…そいやさ、ナウシカってあの後どーなったの?」
メイ「ウリがばれて家出」
サツキ「アハハー」


9 :名前はいらない:2008/10/12(日) 02:21:07 ID:eDl/wquh
まじうけんだけど

10 :名前はいらない:2008/10/16(木) 16:31:58 ID:DZaK4s2L
>6 うむぅ、 ヨーガ失敗。でも ありがとう
>8 ワロタw

11 :鞭moe妹 ◆SMartLUt46 :2008/10/17(金) 16:28:05 ID:y6+P20OT
>>3

『思い出の地図』

マカオあたりで行方不明

昨日の酒場に忘れた名刺
カクテルの海に漬けられてたから
背鰭生え尾鰭生え
ついには鰓まで出来ちゃしょうがない
グラスをぴょんと飛び出して排水溝にす

消えた

そこまでは覚えてる?って女の子が言う
確かこの子は知ってる名前は知らないけれどテレビで見たみたい
あんまり売れてない子で事務所のいざこざに巻き込まれて
マカオあたりで行方不明
じゃあここはマカオ?
いいえここはニホンなのにロッポンギ
そんなことよりグラスの中のそれ、早いとこ空けちゃって
でグイ、そのままピーナッツをひょいひょい口に運

海賊さん海賊さん
宝の地図はあぶり出し
耳にライター押し当てて
じゅうと火遊びしたのなら
明日の朝には布団に広がる男のロマン

いざマカオあたりでくらまそう姿形名前
覚えのない身に覚えの悪い頭抱えこんで
もくずになろう


12 :鞭moe妹 ◆SMartLUt46 :2008/10/17(金) 16:31:01 ID:y6+P20OT
センゴに出そうと思ってしたためあたためていたやつです
どなたかぜひ完成させてあげてください

『宇宙人の二日酔い』

「どうしようも出来ないってこと、やっぱりあるよ」

階段の一番下で脳みそがため息混じりに言ったのを耳たぶのうえに乗っけたまま
僕は僕の銀色の名前がなますぎりにされていくような感覚をちゃっきりちゃっきり
感じていた夜なんだけどさ

巨大な利権構造が綺麗に球体なのは中心が重いから


13 :名前はいらない:2008/10/19(日) 21:22:12 ID:jaS5xm2F
『宇宙人の二日酔い』

「どうしようも出来ないってこと、やっぱりあるよ…」

階段の
一番下で
脳みそが青息吐息
ため息混じりに言ったのを
iPod耳たぶの上に乗っけたまま僕は聴きました

「さようなら 星のカクテル飲んで 君のいない座席眺めて―…」

僕は僕の銀色の名前が ラテンの甘いメロディーに鱠切りにされていくような感覚を
ちゃっきりちゃっきりと ゆらり不思議に感じていた夜なんだけどさ

「巨大な利権構造が綺麗に球体なのは中心が重いから」

君の長い長いメールの遺書には句読点がなくて 覚えてるのはこれだけで
君が最後に云いたかった希望の夢の星の期待の涙の移ろいの足踏みの絶望の諸々の物語を
世界は知らないまま朝はフル回転してやってくるんだぜ

「そっちは快適かい?」

また朝が終わって
夜が来て
星が咲いたら
甘いカクテルでも飲んで
君にメールを送ろうか

14 :名前はいらない:2008/10/19(日) 21:28:10 ID:jaS5xm2F
題名との整合性は気づけば微妙なことになりますた\(^O^)/

15 ::2008/10/21(火) 08:57:25 ID:dtHQg7Ak
>>11 中々面白
あの改行はパクろーと思いました

16 :鞭moe妹 ◆SMartLUt46 :2008/10/22(水) 00:37:19 ID:qbasBY7S
>>13
ありがとうございます
ロマンチックなのにいやみじゃなくて素敵です
自分の中ではタイトルなんか指標です

>>15
えへー
パクリパクられ五里霧中



選者指定コンペに出そうと思ってたやつです
どなたか是々非々完成してあげてくださいまし

『ナイフでは剃れない』

いびつなハートを彩るキャンドル光
名もない夜に落ちる影はガラスのように散る
君はピアノのためにこしらえた指を巧みに組み立て
テーブルの上にピラミッドを作る

どうぞ、お手にとってご覧ください


17 :鞭moe妹 ◆SMartLUt46 :2008/10/22(水) 00:50:51 ID:qbasBY7S
あとポエム大会に出そうと思ってたやつです
タイトルだけですが

『ピアニストの手は幽霊』

18 :名前はいらない:2008/10/31(金) 08:18:02 ID:yOt6XQx+
『ピアニストの手は幽霊』
嗚ー‥呼
痛いの
恨むの
痛いの
痛いの
大きな
大きな

恨むの
恨むの
重いの
想いの
そこから
底から
往きたい
生きたい
重いの
想いの
灯りが
証が
来ないで
隣で
隣で
光を
錨を
落として
堕として
私の
私の
忘れて
云えない
癒えない
孤独
触れない
触れない
孤独
あなたは
貴方は
見えない
癒えない
私を
私を
捜して
云えない
見えない
私を
愛して
愛して

19 :名前はいらない:2008/11/06(木) 04:03:39 ID:5GSd4ZBI
『ナイフでは剃れない』

いびつなハートを彩るキャンドル光はブルー
名もない夜に落ちる人影は ガラスのように砕け散った星空の天秤
君はピアノのためにこしらえた 儚い指を巧みに組み立てては
テーブルの上に白い薔薇のピラミッドを飾る
思い出は記憶のシーツにできた秘密の染み 洗い流せない月の光
ほら、彼方にある島々の影から 今まさに始まらんとする曙の歌

さようなら はみ出した踵は擦り切れて
さようなら 紅い靴下にも穴があいたら
さようなら 小さなガラスの靴は抽き出しの奥へ
さようなら さようなら ありがとう 
いずれ履いていたことも忘れてしまうから・・・

切り裂いたシーツは窓枠に飾って ナイフでも剃れない 消せない 
優しい面影を 風に融かす君

20 :まちぼうけ:2008/11/07(金) 01:04:51 ID:wdWUdQ7b
>>17

「ピアニストの手は幽霊」

僕の魂は、喪失のなかにいる
僕の魂は、欲望に押し潰されている
そして世界の果ての孤独な町で
一人気ままに泣いている

生まれながらに歩きだし
ようやくここまでやってきた
神を知らず怒りのままに
この魂は、ようやくここまでやってきた

さようなら、さようなら、暖かい秋の日に
世界の果てに吹く風が
決別するべき時が来たのだと
優しく僕の憂鬱を刺激する

苦しいだとか楽しいだとか
忘れるために、忘れるために
秋の潤んだ力を借りて
馬の瞳のように一生懸命。

さて、四方八方に頭を下げて
鍵盤の上に倒れ込もう
静かに震える髪の毛を結んで
いじらしく欠伸でもしながら


21 :名前はいらない:2008/11/07(金) 05:07:58 ID:TKDdiE9s
日本の土人国並の政治レベルは世界の笑われ者
(日本人はいつまで顔面身体障害者の麻生を総理大臣にしておくつもり?????)
アメリカで史上初の黒人大統領が誕生した!
人種差別が今なお色濃く残るアメリカだがそれでも現状を打破するために有権者は民主党への政権交代を選択した。
アメリカの民主主義の底力を世界に知らしめたと思う。

ところが日本では長年に渡って自民党が政権の座につき、
政官業が癒着していてもまともな改革が行なわれることは期待薄というお寒い政治状況だ。
それでも金と権力にまみれ顔面が麻痺した麻生は脳も侵されているのか国民の審判(解散総選挙)を仰ごうとしない。

日本の民主主義のあまりの低レベルぶりに世界中の人が失笑している!あ〜情けない!!
さあ!今こそ日本の民主主義の底力を世界に示すため草の根からの政権交代の声をあげるんだ!!!

日本の民主主義の底力を世界に示そう!!! 草の根からの政権交代の声をあげるんだ!!! 民主党にチェ〜ンジ!!!
日本の民主主義の底力を世界に示そう!!! 草の根からの政権交代の声をあげるんだ!!! 民主党にチェ〜ンジ!!!
日本の民主主義の底力を世界に示そう!!! 草の根からの政権交代の声をあげるんだ!!! 民主党にチェ〜ンジ!!!
日本の民主主義の底力を世界に示そう!!! 草の根からの政権交代の声をあげるんだ!!! 民主党にチェ〜ンジ!!!
日本の民主主義の底力を世界に示そう!!! 草の根からの政権交代の声をあげるんだ!!! 民主党にチェ〜ンジ!!!
日本の民主主義の底力を世界に示そう!!! 草の根からの政権交代の声をあげるんだ!!! 民主党にチェ〜ンジ!!!
日本の民主主義の底力を世界に示そう!!! 草の根からの政権交代の声をあげるんだ!!! 民主党にチェ〜ンジ!!!



22 :ふんころがし:2008/11/10(月) 07:08:15 ID:BJYaYaeu
開けている窓に震えるカーテンは赤が基調の模様
明日は晴れって予報士が予報する空は遠い異国の話
僕たちが話す事 太陽が灯す闇
離陸した銀の揚羽はストローを伸ばし時を吸う
無駄のない話 記号が動きだす

23 :名前はいらない:2008/11/11(火) 01:22:50 ID:xK40EYWN
弱肉強食について謳って下さい

24 :名前はいらない:2008/11/11(火) 06:48:08 ID:BSuLkQb4
おまえのものはおれのもの!
おれのものはおれのもの!!

ノ●太「じゃあさ、じゃあさ、道端に落ちてた財布は?」

みちばたのものはけいさつにとどけるにきまってんだろ

ノ●太「じゃあさ、じゃあさ、道端に落ちてた財布が僕のだったら?」

おまえのものはおれのものだが、、
いったんけいさつにとどけ、しかるのちおれのものにする

ノ●太「じゃあさ、じゃあさ、道端に落ちてた僕の野糞は?」

それもけいさつにとどけ、しかるのちおれのものにしたあと…すてる

ノ●太「じゃあさ、じゃあさ、捨てて道端に落ちてた僕の野糞は?」

それもけいさつにとどけ、しかるのちおれのものにしたあと……くう
これでかんぜんにおれのもんだ!

ノ●太「じゃあさ、じゃあさ、…これから道端に野糞するね」


【数日後・閉鎖病練3‐15号室】

おれのものは…うっ‥
おれの…ふぅ〜〜
おれの…
あふふひ

ナース「ちょ、剛田くん、それは食物じゃありませんよ。ドクター!ドクター!!!」

25 :名前はいらない:2009/01/15(木) 05:49:46 ID:P7vIledq
「荒らしに悩める乙女」

26 :名前はいらない:2009/01/16(金) 21:43:27 ID:DuPpnq7U
さっさと書け

27 :名前はいらない:2009/01/16(金) 22:25:37 ID:MdhmJKH2
「荒らしに悩める乙女」

収穫期を迎える直前に無くなった
ダイコンやニンジンが無くなった
ぶっさすものが無くなった
刺さったものが無くなった
いぼ いぼ いぼ
 いぼ いぼ いぼ
気持ちが キュウリ表面上みたいになった帰り道
裏山の川に住む河童の皿をたたき割った
悩みなんて
百均で紙皿を買ってきたら
悩みなんて 
 悩みなんて さらわれる
なんてね 
どっちみち おかっぱ
キュウリの表面上 握りしめた表情



28 :いぬいぬわんわん:2009/02/19(木) 23:56:53 ID:cgtelSax
「アイラブ憤怒し」

29 :名前はいらない:2009/03/14(土) 08:42:29 ID:2UuRaeuT
『アイラブ憤怒し』





ゴルゴ

ゴルゴさーてぃーん





死んでも

俺の後ろに立つんじゃねえ


さん

散々

人を殺してアレだけど



とぅー

トゥギャザー

俺と一緒にやらないか?



あい

愛の標的

募集中



れい

レイジモードで

君のハートを射貫きます


30 :名前なし:2009/11/18(水) 16:04:35 ID:EJAl+bjK
コラールChoral

31 :名前なし:2009/11/18(水) 16:05:17 ID:EJAl+bjK
白いおふくろの胎の中で育っていったバール
その時からもう空はあんなにでかくひっそりと鈍色で
若く、丸裸で途方もなく不可思議だった。
そういう空をバールは愛した、生れ落ちると。

そして空はいつもそこにあった、苦しい時も楽しい時も、
バールが眠り、幸せに酔い、空を見向きもしないでも。
夜には空はスミレ色、バールは泥酔
朝にはバールは神妙、空はあせた杏色。

居酒屋を、教会を、貧民施設を
バールは平然と渡り歩きそれからおさらばする。
疲れることはあっても、なあみんな、バールは決して沈没しない。
バールは自分の空まで引きずって落ちるのだ。

罪人どもの群れがいぎたなくごろごろする中に
バールは裸で横たわり安らかに寝返りをうつ。
空だけだが、その空がいつも
奴の裸身をすっぽり包んでくれる。

世界という名の大女はその両股に挟まれて
押し潰されたがる男に笑いながら身を委ねるが
バールにも大好きなエクスタシーを恵んでくれた。
だがバールは死なない、ただじっと眺めていた。

そしてバールの周りが死体ばかりになると、
奴の情欲はきっと倍にも高まった。
場所はあるぜ、とバールは言った、死体の数はそう多くはねえ。
まだ場所はあるぜ、世界って女の胎の中には。

神がいようといまいと、そんなことはバールには
どうでもいい、バールがこの世にいるうちは。
しかし酒があるかないかってことになると
バールには冗談ごとじゃ済まされない。

32 :名前なし:2009/11/18(水) 16:06:30 ID:EJAl+bjK
女が全てを与えてくれたら、とバールは言う
あとはからっぽだ、追い返しちまえ!
女にくっついている男どもなんか怖がるな、奴らなんか屁でもない。
しかしそのバールも子供は怖かった。

どんな悪徳だって何かの役には立つ
そいつを実行する奴だってそうだ。
自分のやりたいことが分かれば悪徳も役に立つ。
二つを選ぶのだ、一つでは欲張りすぎる!

そんなにだらけているな、それじゃ享楽もできやしない!
やりたいこととはやるべきことだぞ、とバールは言う、
糞をたれるんだって、なあいいか、とバールは言う、
何もしないよりはましなんだ!

そんなにだらけてぶよぶよしているな
お楽しみをするのは全くの所楽じゃない!
強靭な手足とそれに経験も必要だ。
それに時には突き出した腹は邪魔になる。

強靭になれ、なぜってお楽しみは体にひびく
失敗しても、破滅を楽しめ!
何をやらかそうと、毎晩死ねる奴は
永遠に若さを保っていられる。

バールは時に何かをぶち壊す
その中身はどんなか見るためだ。
酷いことだが、それをただの気晴らしにやる。
何かとはバールの星のこと、バールはそれほど自由だった。

そしてそれが汚いと分かっても、その汚れも
地球の全てのもの同様バールのものなのだ。
そうだ、バールは自分の星が気に入って、すっかりこいつに惚れ込んでいる。
だいたい他の星なんかないのだから。

33 :名前なし:2009/11/18(水) 16:07:25 ID:EJAl+bjK
星空でバールの死体を狙っている
肉付きよい禿鷹をバールはちらちら見上げる。
時にバールは死んだふり。禿鷹が矢のように舞い降りると、
バールは夕餉に黙々と禿鷹を賞味する。

陰気な星空のもと嘆きの谷のこの世で
バールは荒野の草を舌鼓うって食いつつ進む。
草がすっかりなくなると、バールは歌いながら
ぶらぶらと永遠の森に眠りに出かける。

そしてバールが引き込まれて暗い胎内に戻った時、
この世界はバールにとって何ほどの意味があったか? バールは飽きた。
バールはその瞼の底に、死んでもなお十分に
空をもてるほど、たっぷり空を収めていた。

暗い大地の胎内でバールは腐る。
空は相変わらずでかくひっそりと鈍色。
若く丸裸で途方もなく不可思議だった。
かつてバールがこの世にあった時に愛したのもこのような空。

34 :名前なし:2009/11/18(水) 16:58:26 ID:EJAl+bjK
ダイニングルーム


(メッヒ、エミーリエ・メッヒ、プシィーラー、ヨハネス・シュミット、ドクター・ピラー、バール、
それに他の客たちが、観音開きのドアを通って入って来る)

35 :名前なし:2009/11/18(水) 16:59:37 ID:EJAl+bjK
メッヒ  (バールに)ワインを一口いかがです、バールさん?

(一同腰を下ろす、バール、上席につく)

メッヒ  カニを召し上がりますか? こいつはウナギの死体だ。
ピラー  (メッヒに)私は嬉しいですよ、光栄にも私が朗読させていただいたバール君の不滅の詩が、皆さんの喝采をいただきましてね。
      (バールに)君の詩を出版なさいよ。メッヒさんはパトロンなみにたっぷり払いますからね。あなたも屋根裏部屋からおさらばで来ますよ。
メッヒ  私はシナモンの材木を買います。シナモンの樹の森がそっくりブラジルの川を流れてきてくれるんです。しかし、あなたの詩も出版しますよ。
エミーリエ  屋根裏部屋にお住まいなんですの?
バール  (飲んだり食ったりしながら)クラウケ通り、六十四番地。
メッヒ  どうも私は、太りすぎて抒情詩にはむかないな。ところで、あんたの頭蓋骨はマレーの群島で見た男にそっくりだ。
     そいつは自分を鞭打って仕事をする習性をもっていましてね、働く時は必ず歯をむき出すんだ。
プシィーラー  紳士ならびに淑女の皆さん、ずばりと言わせていただければ、彼のような人物がつつましい生活に甘んじているのは私にはショックであります。
          ご存知のように、われらの巨匠が、私の役所で平の雇員をやっておられるのを発見したのは私であります。
          このような人を日雇いで働かせるのは、我が町にとってまことに不名誉なことであると思わざるを得ません。
          メッヒさん、お祝いします。あなたのサロンは、この天才の、そうですとも天才ですよ、
          この天才の世界的名声を育んだゆかりの地と呼ばれるようになりますよ。乾杯、バール君!

(バールは拒むような仕草をする。彼は食べ続ける)

36 :名前なし:2009/11/18(水) 17:00:42 ID:EJAl+bjK
ピラー  君についての評論を書いてあげますよ、原稿を持っていますか? 僕には新聞がついていますから。
若い男  どうしてあなたはあのものすごい素朴さを生み出せるのです、ねえ、先生? 
      あれはまさにホメロスですよ、僕はホメロスを、民衆叙事詩の素朴さを鋭い感性で楽しみながら、
      それに手を加えていくただ一人の詩人、いやそういう詩人の一人だと思います。
若い婦人  むしろ、あなたはウォルト・ホイットマンを思い出させますわ。でもあなたの方が偉い方だと思います。
別の男  しかしそれより、ヴェルハーレンのような所があると思いますね。
ピラー  ヴェルレーヌ! ヴェルレーヌだよ! 顔つきからして似ている。我らが骨相学者ロンブローゾを、忘れちゃいけませんよ。
バール  ウナギをもう少しください。
若い婦人  でもあなたの方が野性的な所はもっと優れていますわ。
ヨハネス  バールさんは、自分の詩を馬車ひきたちに歌って聞かせるんですよ、川べりの居酒屋で。
若い男  あなたは、今までに出てきた詩人を全部合わせたような方ですね、先生。現存の抒情詩人は、あなたの露払いにもなれないでしょう。
別の男  とにかく彼は大きな希望だ。
バール  ワインをもう少しください。
若い男  僕はあなたを、我々の待望する世界の偉大な救世主の、先駆者たるべき方だと思います。

37 :名前なし:2009/11/18(水) 17:01:43 ID:EJAl+bjK
若い婦人  先生、皆さん、よろしければ雑誌「革命」から詩を一つ朗読させてください。きっと、皆さんも興味をお持ちになると思いますわ。

(彼女は立ち上がって読む)

詩人は輝かしい調和を避ける
彼はチューバを吹き鳴らし、
ドラムを打ち込む、耳をつんざくほど。
刻み込むような文章で民衆をかきたてる。

新しい世界
苦悩の世界を抹殺しつつ、
至福にいたる人類の島
演説、マニフェスト
演壇からあげる歌声
新しい神聖な国家を
説くのだ、各国の民衆の血潮に、その血潮の血を注ぎ込もう。

楽園の創始だ。
爆発を孕んだ大気を広げよう!
学習だ! 準備だ! 練成だ!

(拍手)

38 :名前なし:2009/11/18(水) 17:02:37 ID:EJAl+bjK
若い婦人  (急き込んで)すみません! この号から別の詩をもう一つ見つけました。

(読む)

太陽が彼を煮え立たせ、
風が彼をかさかさに乾かした、
どの樹も彼を宿らせようとはしなかった、
彼は行く先行く先で倒れ伏した。

ただ一本だけ、
燃える炎のような赤い実を、
たわわにつけたナナカマドが
彼に屋根を与えてくれた。

そこで彼はその樹にぶら下がって揺れた、
足を草の中に横たえた。
夕日が、血のように赤く
彼の肋骨を染み透って濡らした。

花咲き乱れる森の奥深くで
歌う蛇のうからやから
その銀色の咽喉の中で
かすかに呟かれる噂。

その木の葉の生い茂った領域の
全てのものが戦慄いた、
明るい色の葉脈に、
父なる神の御手を開きながら軽やかに。

(拍手)

39 :名前なし:2009/11/18(水) 20:23:08 ID:EJAl+bjK
叫び声  天才的だ。デーモニッシュだが、しかも趣味がいい。全くうっとりしてしまう。
若い婦人  私の考えでは、これはバール的な世界感覚に一番近いですわ。
メッヒ  旅行するといいですよ、エチオピアの山々へ。あなたにはきっと役に立ちますよ。
バール  山の方が来てくれるといいんですがね。
ピラー  そんな必要はない。君の詩にはあれほど生活感情が溢れているんだ! 私は素晴らしい感動を受けましたよ。
バール  馬車ひきたちは、詩が気に入ったら金を払ってくれるんですがね。
メッヒ  (飲みながら)あなたの詩を出版しますよ。シナモンの材木を河に流しているだけにするか、それとも両方やるか。
エミーリエ  あなた、そんなに飲んじゃいけないわ。
バール  僕にはワイシャツがない。真っ白なワイシャツが必要になるかな。
メッヒ  あんた、本の出版のことはどうでもいいようですね。
バール  でも、絹のやつじゃなくちゃな。
ピラー  (皮肉を込めて)君のお役に立つには、どうしたらいいのですかねえ?
エミーリエ  とても素晴らしい詩をおつくりになるのね、バールさん。詩ではとっても優しいのね。
バール  (エミーリエに)オルガンで何か弾いてくれませんか?

(エミーリエ、演奏する)

メッヒ  私は、オルガンを聞きながら食べるのが好きでしてね。
エミーリエ  (バールに)どうか、そんなにお飲みにならないでちょうだい、バールさん。
バール  (エミーリエを見上げて)シナモンの材木流しは、あなたのためですか、メッヒさん? 伐採した材木をそっくり?
エミーリエ  お飲みになっていいわ、お好きなだけ。ただあなたにお願いがしてみたかっただけなの。
ピラー  君は飲みっぷりにも、将来性がありますね。
バール  (エミーリエに)もっと調子を出して弾いて下さい。あんたの二の腕は素敵だ。

(エミーリエは演奏を止めて、テーブルに近寄る)

40 :名前なし:2009/11/18(水) 20:27:24 ID:EJAl+bjK
ピラー  君は音楽そのものはどうでもいいんだね?
バール  音楽なんか聞いていませんや、あなたは喋りすぎますぜ。
ピラー  君は、おかしなハリネズミだね、バール。どうも本を出版してほしくないようだね。
バール  そのけだもので商売しようというんですか、メッヒ?
メッヒ  いけませんかね?
バール  (エミーリエの腕を撫でながら)僕の詩が、あんたと何の関係があるんです?
メッヒ  私は、あなたの喜ぶことがしてあげたいな。林檎をもっとむいてあげな、エミーリエ?
ピラー  奴は食い物にされるのを警戒しているんですよ。君、私を利用する気はまるで起きませんか?
バール  いつも広い袖の服を着ているのか、エミーリエ?
エミーリエ  もうワインをお止めにならなくちゃ。
プシィーラー  あなたは、アルコールをもっと控えた方がいいいですよ。どうも天才というものはえてして……
メッヒ  ついでに風呂でも使っていきませんか? ベッドを用意させましょうか? まだ何か、忘れていませんか?
ピラー  ほら、ワイシャツが逃げていってしまうぞ、バール。叙情詩はもうお流れだ。
バール  (飲む)なぜ何でも商売ばかりしたがるんです。ベッドに引っ込むがいいや、メッヒ。
メッヒ  (立ち上がっている)神様の創ったけだものなら、私は何でも好きだが、
     しかしこのけだもの相手じゃ商売はやれないな、おいで、エミーリエ。皆さん、さあ、どうぞ、こちらへ。

(みんな腹を立てて席を立つ)

41 :名前なし:2009/11/18(水) 20:28:56 ID:EJAl+bjK
叫び声  あんた、前代未聞ですよ、こんな失礼な……
プシィーラー  メッヒさん、私はショックです……
ピラー  君の詩には、たちの悪い所があるね。
バール  (ヨハネスに)あいつは何て名前だ?
ヨハネス  ピラー。
バール  ピラー、役に立ちたかったら古い新聞でも送って下さい。
ピラー  君は吹けば飛ぶような奴だ。文学は君にはなも引っ掛けやしないよ。

(一同退場)

給仕  (入ってきて)あなた様の外套でございます。

42 :名前なし:2009/11/18(水) 20:44:28 ID:EJAl+bjK
バールの屋根裏部屋


(星月夜。窓辺にバールとヨハネス少年。二人、空を眺めている)

43 :名前なし:2009/11/18(水) 20:45:53 ID:EJAl+bjK
バール  夜、草の中でうんと手足を伸ばして横になっていると、この地球は丸い球で、俺たちは飛んでいるんだってことを身にしみて感じるな。
      この惑星(地球)には、草木をすっかり食い尽くしてしまう動物がいるんだぜ。星の中じゃ小さい方らしいよ。
ヨハネス  天文学の知識があるんですか?
バール  ないさ。

(沈黙)

ヨハネス  僕には恋人がいます。この世ならぬ清らかな女性です。なのに僕は、いつか、彼女がこぶだらけの松の木と寝ている夢を見たんです。
       彼女の白い肉体が松の木の上に長々と横たわり、節くれ立った枝が体にまとわりついていた。それ以来、僕は眠れなくてね。
バール  君は彼女の真っ白な体をもう見たのか?
ヨハネス  いいえ、彼女は純潔なんですよ、膝だって見てやしない。純潔にもいろんな程度があるんでしょう? 
       でも、時々夜なんかに、ふざけて膝に抱いたりすると、彼女は木の葉のように震えるんです。
       でもそれは夜だけですよ。しかし、あれをやるには気弱すぎるんだ、僕は。彼女は十七なんですよ。
バール  夢の中では、彼女は寝るのが好きだったか?
ヨハネス  ええ。
バール  身につけた下着は清潔で、股には雪のような白いペチコートが下がっているのか? 
      君がひとたび彼女と寝ちまえば、多分彼女もただの肉の塊にすぎなくなるさ。顔なんかなくなっちまうぜ。
ヨハネス  あなたは、僕がどう感じるかってことばかり言うんですね。僕は自分を臆病者だと言ったんですよ。
       分かりました、あなたも、肉体の交わりを不潔だと思っているんですね。

44 :名前なし:2009/11/18(水) 21:03:42 ID:EJAl+bjK
バール  そんなものは、あれのできない豚野郎どものほざくことさ。処女の腰に抱きつけば被造物の不安の幸福に浸りながら君は神になれるぜ。
      松の木には沢山の根があるが、その絡み合った根みたいに、君たちは一つベッドの中で手足を絡みつかせる。ベッドでは心臓は高鳴り、血がほとばしる。
ヨハネス  しかし、まだ十七では法律で罰せられますよ。それに両親だってただではおかない!
バール  君の両親もか---(ギターに手を伸ばす)---奴らは過去の人間だぜ。奴らは一体なぜ誰でも死ねるあのセックスって奴に反対して口を開いたりするんだ。
      腐りかけた歯が見えるだけなのに。君たちはセックスが我慢できなくなったら、げろでも引っ掛けあえばいい。

(ギターのチューニングをする)

ヨハネス  それは彼女が妊娠してしまうって意味ですか?

45 :名前なし:2009/11/18(水) 21:05:19 ID:EJAl+bjK
バール  (鋭いコードをいくつか伴奏して)色褪せた優しい夏が過ぎ去り、女どもが海綿のようにたっぷり愛を吸い取ると、奴らはまた獣にかえる。
      悪意に満ち、子供っぽく、せり出してきた小腹と崩れた乳房は不恰好で、ぬめりとまとわりつく腕は粘っこい蛸のようだ。
      そして奴らの体は崩壊し力萎えて死の手に落ち、恐ろしい絶叫を上げながら、新しい宇宙でも生むように、小さな実を産み落とす。
      苦しみのうちにその実を吐き出すのだ、そして一度は快感に浸りながら乳を含ませる。
      (弦を掻き鳴らして)歯がなくちゃ駄目だ、立派な歯さえあれば、愛なんて、オレンジにがぶりとかぶりついてたっぷり汁を吸い取るのと同じようなものさ。
ヨハネス  あなたの歯はけだものの歯みたいですね。どす黒く黄身がかって、大きくて、気味が悪い。
バール  それに愛なんてものは、剥き出しの腕を池の水につけて指に藻を絡ませながら泳がせるようなものさ、
      それは酔っ払った木が大風にのしかかられて呻きの声で歌いだすときのあの苦しみに似ている。
      暑い日盛りに、貪るように飲むワインの中に溺れるようなものさ、女の体はまるで冷えたワインのように、皮膚と襞という襞に染み透っていく、
      関節は風にそよぐ草木のようになよやかになり、ぶつかり合う力は、嵐に向かって飛ぶ時のように柳に風と受け流されてしまう。
      そして女の体は冷え切った石ころのように君の上を転がりまわる。しかしまた愛ってやつはココナッツのようでもある。素敵なのは新鮮なうちだけさ。
      汁をすっかり吸ったら吐き出さなければならない。あとに残ったかすは酷い味だから。
      (ギターを放り出す)しかしもうアリアを歌うのは飽き飽きしてきた。
ヨハネス  じゃ、あれがそんなに素敵なものなら、僕にもやってみろと仰るんでしょう?
バール  君はおいそれと手を出さぬ方がいいと言っているんだよ、ヨハネス!

46 :名前なし:2009/11/19(木) 00:49:14 ID:T00fhCy8
居酒屋


(午前中。バール、馬車ひきたち、エーカルトは女給のルイーゼと後ろにいる。窓越しに白い雲)

47 :名前なし:2009/11/19(木) 00:50:33 ID:T00fhCy8
バール  (馬車ひきたちに話している)振舞われたワインを吐き出してやったもんで、奴はあの鏡のように綺麗なお部屋から俺を放り出しやがった。
      ところが奴の女房が俺の尻を追いかけてきてな、それでその晩にはもう、たっぷり楽しませてもらったぜ、今では、まとわりつかれてうんざりしているけどな。
馬車ひきたち  そんな奴は、したたか尻に食らわしてやるといい、奴らは盛りがついているのは牝馬なみだが、頭はもっと悪いぜ。
          その女をやっちまえ! 俺なんざ、女房を喜ばせてやる前には、いつもさんざんぶっ叩いてやるぜ。
ヨハネス  (ヨハンナを連れて入って来る)これがヨハンナです。
バール  (後ろの方に引っ込む馬車ひきたちに)俺も、後で君たちの所へ行って歌うぜ。こんにちは、ヨハンナ。
ヨハンナ  ヨハネスがあなたの詩を朗読してくれましたわ!
バール  そう。君はいくつなんだい?
ヨハネス  六月で十七になりました。
ヨハンナ  あなたに嫉妬してしまうわ。彼ったら、いつもあなたに夢中なんですもの。
バール  あんたはヨハネスに惚れているんですね! 今は春だ。僕はエミーリエを待っている。愛するのは享楽するよりもいいことだ。
ヨハネス  男があなたにひかれるのは分かるんですが、どうしてあなたは女たちもものにすることができるんですか?

(エミーリエ、急いで入って来る)

48 :名前なし:2009/11/19(木) 00:52:01 ID:T00fhCy8
バール  ほら来たぜ。こんにちは、エミーリエ。ヨハネスが許婚を連れてきたんだ。座れよ!
エミーリエ  どうしてあなたは、私をこんな所へ呼び出すことが出来るの! いやらしい人たちばかりね。それに、この安っぽい居酒屋! これがあなたの趣味なのね!
バール  ルイーゼ! このご婦人に焼酎一杯!
エミーリエ  私を笑いものにする気?
バール  なあに、あんただって飲むさ、みんな同じ人間だもの。
エミーリエ  あなたは人間じゃないわ。
バール  よく知っているね。(ルイーゼにグラスを差し出す)けちけちするなよ、お姉ちゃん。(彼女を抱く)今日はまたスモモみたいにやわらかい肌触りだ。
エミーリエ  なんて悪趣味なの!
バール  もっと大声で喚けよ。
ヨハネス  とにかくここは面白いですね。単純な民衆たち。連中の飲みっぷり、それにあの冗談ときたら! おまけに窓から雲がのぞいている。
エミーリエ  この女を初めてここに連れてきたのでしょう? この白い雲の見える所に?
ヨハンナ  川べりの草原に行った方がいいんじゃないかしら、ヨハネス?
バール  あそこは駄目だ! ここにいなさい! (飲む)空はスミレ色だ、ことに酔いつぶれた時なんかな。
      だがベッドは真っ白で、空と大地の間には愛があるんだ。(飲む)どうして君たちはそう臆病なんだ? 
      空はあんなに開けっぴろげだぜ、君たちはちっぽけな影さ! 空は肉体でいっぱいだ。愛しすぎて蒼褪めてしまった肉体でな。
エミーリエ  あなた、また飲みすぎたのね? それでやたらに喋るのね。この酷くて素晴らしいお喋りで人を汚い豚小屋に縛り付けてしまうんだから。
バール  空ってやつは(飲む)黄色になる時だってあるぜ。猛禽類も沢山いるぜ! みんなも酔っ払ったらどうだ。
      (テーブルの下をのぞいて)誰だ、俺のむこうずねを突付く奴は? お前か、ルイーゼ? 
      ああ、そうか、お前だな、エミーリエ! なあに、どうってことないさ。さあ、飲め!

49 :名前なし:2009/11/19(木) 00:53:11 ID:T00fhCy8
エミーリエ  (腰を浮かせて)分からないわ、今日はどうしたの。どうやら私がここへ来たのが、いけなかったようね。
バール  今頃気付いたのか? ならいくらここにいても構わないんだぜ。
ヨハンナ  そんなことを仰ってはいけないわ、バールさん。
バール  あなたは優しい心の持ち主だな、ヨハンナ。この先、夫を欺くことなんて絶対にないっていうのか? え?
馬車ひき1  (急に笑い出して)ほれ、切り札の淫売だ、切ったぜ!
馬車ひき2  もっとやってと淫売がいった、これからいいとこなのってな! (大笑い)あの女をやっちまえ!
馬車ひき3  恥ずかしくないの、不貞を働いたりして、と女中と寝た下男に奥様が言ったとさ。(大笑い)
ヨハネス  (バールに)ヨハンナがいるからこれで。彼女はまだほんの子供なんですよ!
ヨハンナ  (エミーリエに)一緒にいってくださる? そうしたら二人で帰れるわ。
エミーリエ  (テーブルに伏せて泣く)恥ずかしいわ。
ヨハンナ  (彼女に腕を回して)よく分かるわ、大丈夫よ。
エミーリエ  そんなにあたしを見ないで! まだ本当に若いのね。あなたには、まだ何も分かってはいないのよ。
バール  (不機嫌に立ち上がる)喜劇『冥途に迷い込んだ姉妹』ってところだ! (馬車ひきたちの所へ行き、壁にかかっているギターをとって音を合わせる)

ヨハンナ  あの人は酔っているんです。奥さん。明日になれば後悔するわ。
エミーリエ  あなたには分からないでしょうね。あの人いつもこうなの。でも私はあの人が好きよ。

50 :名前なし:2009/11/19(木) 00:54:11 ID:T00fhCy8
バール  (歌う)

オルゲは俺にこう言った

この世で最上の所は
両親の墓地の芝生じゃない

懺悔の席でも淫売のベッドでもなく
柔らかで白くて暖かく肉付きのいい股でもない

オルゲは俺に言った、この世で
最上の場所はいつだって便所だったと

これこそ満ち足りていられる場所
頭上には星をいただき糞を足元に見る

まさに素晴らしいとしか言い様のない場所
結婚式の晩でも一人でいられる

謙虚になれる場所だ、ここに来るといやでも分かる
自分が何も持ちつづけられぬ人間にすぎないことが

体は心持よくやすませながら
そっと、しかし力んで自分の仕事をする場所

しかもなおそこで自分が何者であるかを悟るのだ
晩所にしゃがむ奴は---食っているのだ!

51 :名前なし:2009/11/19(木) 01:10:20 ID:T00fhCy8
馬車ひきたち  (手を叩く)ブラボー! 素敵な歌だ! チェリーブランデーをバールさんに頼むぜ、あんた飲んでくれるでしょう。
          この人はこの歌を自分で捻り出したんだぜ。偉いもんだな!
ルイーゼ  あんたはすごいたまだよ、バールさん!
馬車ひき1  もしあんたが役に立つことに手を出していれば出世することうけあいだろうになあ。運送会社の社長くらい、すぐにでもなれらあ。
馬車ひき2  こういう頭をしてなきゃ駄目だよ!
バール  頭なんてどうってことないぜ! 尻や他の所も大事だ。乾杯! ルイーゼ! 
      (自分のテーブルに戻る)乾杯、エンミイ! なあ、せめて飲んだらどうだ、他に能力がないならよ! 飲めっていうんだ!

(エミーリエ、目に涙を浮かべながら、焼酎のグラスに口をつける)

バール  これでよしと。これでどうにかお前の体にも火がついたわけだ。

52 :名前なし:2009/11/19(木) 01:11:38 ID:T00fhCy8
エーカルト  放っておけ! 俺と一緒に行こう、兄弟! 粗い埃の舞う大通りに出よう。夜、大気はスミレ色だ。
        酔っ払いのごろごろしている居酒屋へ行こう。お前が孕ませた女たちが身を投げる黒い河へ、
        青白いちっぽけな女たちの集まる教会へ行こう。お前、言っていたじゃないか、こんな所で息ができるかって。
        牛小屋に行って、動物たちの間で眠ろう。牛小屋は暗く、あちこちでもうもうと牛が鳴くんだ。
        森へ行こう、あそこでは頭上に硬い葉ずれの音がし、天の光を忘れていられる。神様は人間を忘れてしまったぜ。
        お前、まだ覚えているのか、空の眺めを? お前はテノールの歌声になったじゃないか
        (両腕を広げて)俺と一緒に来い、兄弟! 踊りだ、音楽だ、酒だ! 雨にずぶ濡れになり、太陽を素肌に受けよう! 
        闇と光だ! 女に犬! お前、もう駄目になってしまったのか?
バール  ルイーゼ! ルイーゼ! 錨をくれ、俺をこいつから引きとめてくれ! (ルイーゼ、彼に寄り添う)俺を助けてくれよ、みんな!
ヨハネス  誘惑されては駄目ですよ!
バール  なあお前!
ヨハネス  あなたのお母さんのこと、芸術のことを考えてください! 強くなってください! (エーカルトに)恥ずかしくないのか! あんたは悪魔ですよ!
エーカルト  来い、兄弟バール! 二羽の白い鳩のように幸福の青空の彼方に飛んで行こう! 
        明け方の光に包まれた川の流れ、風の中の墓地、無限に広がる草原の香り!
ヨハンナ  しっかりして、バールさん!
エミーリエ  (彼の方に詰め寄る)行っちゃ駄目! いい! あんた、そんなことするにはもったいない人よ。
バール  まだ早すぎるぜ、エーカルト! 他の生き方もあらあ! みんな乗らないとよ、兄弟。
エーカルト  じゃ、一昨日来いだ! 心臓肥大のくせに餓鬼みたいな面しやがって! (去る)

53 :名前なし:2009/11/19(木) 01:13:10 ID:T00fhCy8
馬車ひきたち  クラブの十を出せ! 畜生! 勘定だ! お終いだ!
ヨハンナ  今は、あなたの勝ちだったわ、バールさん!
バール  今頃になって汗かいてきやがった! 今日は暇かい、ルイーゼ?
エミーリエ  そんなこと言わないで、バール! 分からないのね、私にどんな仕打ちをしているか。
ルイーゼ  そのマダムなんか、放っておきなよ、バールさん、その人がおかしいってことは、子供にだって分かるさ。
バール  静かにしろ、ルイーゼ! おい、ホルガウァー!
馬車ひき1  何か用かい?
バール  ここに虐待されている女がいるんだが、愛が欲しいんだってよ。ホルガウァー、こいつにキスしてやってくれよ!
ヨハネス  バール!

(ヨハンナ、エミーリエを抱く)

馬車ひきたち  (笑いながらテーブルをどんどん叩く)やっつけろ、アンドレアス! 抱けったら! 
          お上品な女だぞ、先に鼻をかんでおけ、アンドレ! あんたも人でなしだな、バールさん!
バール  お前、そんなに冷たい女か? 俺を愛しているんだろ? 相手はうじうじしている。
      エンミイ! キスしてやりな! みんなの前で俺に恥をかかせる気なら縁を切るぞ。一、二。

(馬車ひき、身を屈める。エミーリエ、とめどなく涙の溢れる頭を彼の方に向ける。彼は大きな音を出してキスする。けたたましい笑い声)

54 :名前なし:2009/11/19(木) 01:14:19 ID:T00fhCy8
ヨハネス  バール、それは酷いよ! この人は酔うと残酷になり、それから上機嫌になるんだ。酷すぎるな。
馬車ひきたち  ブラボー! なんで飲み屋なんかに迷い込んだんだ! これでこそ男の鑑だ! 
          こいつは間男している女さ! そうされるのが当たり前だ! (立ち去りかける)この女をやっちまえ!
ヨハンナ  なんてこと! あんた、恥ずかしくないの!
バール  (彼女の方に寄って)腰が抜けたみたいなのはどうしてかい、ヨハンナ?
ヨハネス  どうしようというのです?
バール  (彼の肩に手をかけて)どうして君まで、詩なんか作らなきゃならないんだ! 人生はこんなに真っ当なのにさ。
      矢のように流れる水に仰向けに身を委ね、オレンジ色の空の下に丸裸のまま、その空がスミレ色になり、
      それから真っ黒な穴になっていくのを見つめていられるのにさ……敵を踏みにじったり……悲しみを音楽の種にしたり……
      愛の苦しみにすすり泣きながら林檎にかじりついたり……女の肉体をベッドに押し付けたりしている時にさ……

(ヨハネス、黙ってヨハンナを連れ出す)

55 :名前なし:2009/11/19(木) 01:15:38 ID:T00fhCy8
バール  (テーブルに身を支えて)お前たちには分かったか! 骨身にこたえたかい? ちょっとした見世物だった! 
      けだものはおびき出さなきゃいけない! けだものと日なたに出よう! 勘定だ! 
      愛も真昼間の日なたでだ! 青天井の下で太陽を浴びて、真っ裸でさ!
馬車ひきたち  (彼の手を握って)あばよ、バールさん! 失礼しますぜ、バールさん! 
          いいかい、バールさん、俺はこれまでも考えていた、バールさんの頭はおかしいんじゃないかって、歌だって何だってさ。
          でも、はっきりしたよ、心にはちっとも狂いはないんだなあ! 女って奴は扱い方が肝心だ! 
          それで今日ここで、白いお尻を拝ませてもらったさ。さよなら、サーカスの先生! (去る)
バール  さよなら、諸君! (エミーリエ、ベンチに身を投げ出して嗚咽する。バールが手の甲で彼女の額を撫でる)
      エンミイ! もう安心だぜ、済んじまったよ。(涙に濡れた彼女の顔から髪をかきあげてやる)
      忘れるんだ! (大儀そうに彼女に覆い被さり、キスする)

56 :名前なし:2009/11/19(木) 01:51:56 ID:T00fhCy8
バールの屋根裏部屋


(明け方のかすかな光、バールとヨハンナ、ベッドの縁に座っている)

57 :名前なし:2009/11/19(木) 01:52:51 ID:T00fhCy8
ヨハンナ  ああ、なんてことをしてしまったんだろう! 私は悪い女ね。
バール  それより、体を洗った方がいいぜ!
ヨハンナ  どうしてこうなったのか、まだ分からないわ。
バール  みんなあのヨハネスのせいだ。君をここへ連れ込んできておきながら、
      君の膝がなぜ震えているかが分かったとたんに道化のオスカーのようにここから飛び出して行っちまうんだからな。
ヨハンナ  (立ち上がり、小声で)もし、あの人が戻って来たら……
バール  もっと文学的にいこうぜ。(仰向けになって)アララート山の頂には夜が白み始める。
ヨハンナ  私、起きていた方がいいのかしら?
バール  ノアの洪水まで待ちな。寝てろよ!
ヨハンナ  窓を開けたくないの?
バール  俺はこの匂いが好きだ。どうだ、もういっちょう新鮮な所で? 済んだことは済んだことさ。
ヨハンナ  あなたったら、どこまで下品なの!
バール  (ベッドの上で)ノアの洪水で純白に清められれば、バールの思いは天に羽ばたくぜ。まるで、黒い流れの上を飛んで行く鳩のように。
ヨハンナ  コルセットはどこへいったのかしら? こんな格好じゃあたし!
バール  (彼女にコルセットを差し出して)ほら! こんな格好じゃ何が出来ないんだ、ええ!
ヨハンナ  帰るのよ。(コルセットを落とすがそれを身につける)
バール  (口笛を吹いて)骨がばらばらになった感じだ。キスしてくれよ!
ヨハンナ  (部屋の真中のテーブル脇で)何か言ってよ! (バール、黙っている)まだ私を愛している? ねえ、言って! (バール、口笛を吹く)それを言えないの?
バール  (天井を見つめたまま)俺はもう食傷しちまっているよ。
ヨハンナ  じゃあ、夕べはどうだったの? ついさっきは?
バール  ヨハネスはさぞや大騒ぎして喚くだろうな。エミーリエって女は、穴のあいた帆前船のように、ぐるぐると堂々巡りをしている。
      俺はここで飢え死にするかもしれないぜ。だって君たちはみんな、人のためには指一本動かそうとしないんだからな。やりたがるのは一つことだけだ。

58 :名前なし:2009/11/19(木) 01:54:14 ID:T00fhCy8
ヨハンナ  (放心したようにテーブルを片付ける)あなただって---あたしに対してそうだったんじゃない?
バール  体は洗ったのか? 現実的なことは何も考えてないんだな! こんな目にあったのは初めてなのか? さあ、家へ帰りなよ! 
      ヨハネスには、夕べは俺に家まで送ってもらったと言っておけばいいさ。そして、あいつに毒づいてやれ。夕べは雨が降ったんだ。(布団に包まる)
ヨハンナ  ヨハネス? (苦しげにドアの所に行き、去る)
バール  (鋭く寝返りをうって)ヨハンナ! (ベッドを飛び出して、ドアの所へ行く)ヨハンナ! (窓辺に立って)走って行く! 走って行っちまった!

(彼はベッドに戻ろうとするが、枕を床に投げつけ、うめきながらその上に身を投げる。暗くなる。中庭から手回しオルガンの音が聞こえてくる)

59 :名前なし:2009/11/19(木) 02:09:54 ID:T00fhCy8
同じくクラウケ通り六十四番地 屋根裏部屋


(バールがベッドに転がっている)

60 :名前なし:2009/11/19(木) 02:10:48 ID:T00fhCy8
バール  (口ずさむ)

酔うほどに 夕べの空は
暗くなり 時には紫
この俺を かりたてる……

(二人の姉妹、腕を組み合って登場)

バール  (さらに口ずさむ)

白いベッドの組み打ちに

姉  私たち来たわよ、バールさん。
バール  この千客万来の鳩小屋につがいでご入来か。服を脱ぎな!
姉  先週、お母さんに、階段のきしむ音を聞かれちゃったわ。(彼女は妹のブラウスを広げる)
妹  この部屋へそっと上がっていった時は、階段はもう薄暗かったわ。
バール  そのうちにお前たちが厄介者になってくるぜ。
妹  そうしたら身投げしてやるわ、バールさん。
姉  私たち、二人で……
妹  恥ずかしいわ、姉さん。
妹  初めてでもないのに……
妹  でもあの時はそんなに明るくなかったじゃない。今は外は明るい真昼間よ。
姉  二度目でもないのに……
妹  あんたも脱がなくちゃ。
姉  私だって脱ぐわよ。
バール  用意できたら、こっちへ来てもいいぜ。そうなれば暗くなる。
妹  今日はあんたが先でなくちゃ、お姉さん。
姉  この前も私が先だったから……
妹  違うわ、私だったわよ。
バール  二人同時にやってやるよ。
姉  (妹の体に腕を回して立っている)もういいわ、でもそっちは明るいのね。
バール  外は暖かいか?
姉  だってまだ四月になったばかりよ。
妹  でも今日は、外は日差しが暖かいわ。
バール  この前は楽しかったかい?

(沈黙)

61 :名前なし:2009/11/19(木) 02:28:45 ID:T00fhCy8
姉  女の子が身投げしたのよ。ヨハンナ・ライアーっていうんですって。
妹  ラーヒ川に飛び込んだんですって。私なら、あんな川はごめんだわ。流れが激しいんだもの。
バール  身投げか? 理由を知っているか?
姉  いろいろ言っている人もあるわ。その噂でもちきりよ。
妹  その人、夕方家を出たきり一晩中帰って来なかったんですって。
バール  朝になっても帰らなかったのかい?
妹  ええ。それから川へ飛び込んだんですって。まだ見つかっていないのよ。
バール  まだ流れているわけか……
妹  どうしたの、姉さん?
姉  なにも。ちょっと寒気がしたんでしょう。
バール  今日はいやに面倒くさいんだ。帰ってもいいぜ。
姉  そんなことってないわ、バールさん。この娘にそんな仕打ちをしてはいけないわ。

(ノックの音)

妹  ノックだわ。お母さんよ。
姉  まあどうしよう、開けないでね!
妹  怖いわ、姉さん。
姉  ほら、あんたのブラウスよ! (ノックの音は激しくなる)
バール  これがおふくろさんなら、お前さんたち、それ相応のお仕置きをされるだろうぜ。
姉  (急いで服を着る)まだ開けないで、お願い、錠を下ろしておいてよ、どうしよう!
下宿のおかみ  (太った女。入って来る)あれ、まあまあ、やっぱり思った通りだ! 二人いっぺんになんて! 
           ええ、一体恥ずかしくないのかい! 二人一緒にこんな男の巣で寝るなんて! 
           朝から晩まで、それから朝まで、ひっきりなし、あんたのベッドは冷えていることがないんだね! 
           だけど、これだけは言っておくわよ、このうちは女郎屋じゃないんですよ!

(バール、壁の方を向く)

62 :名前なし:2009/11/19(木) 02:30:21 ID:T00fhCy8
下宿のおかみ  きっと眠いんでしょうね? あんたは女に飽きるってことがないの? 
           あんたの体は肉がなくなって、お日様も通り抜けてしまいそう。
           まるで幽霊みたいに見えるよ。本当にもう骨と皮みたいになっちゃってるよ。
バール  (腰を動かして)こいつら、白鳥のように俺の森の中に飛んで来たのさ!
下宿のおかみ  (手を合わせて)たいした白鳥さ! うまい言い草だよ! 
           あんたなら詩人にだってなれるでしょうよ! その膝が腐っちまわないうちならね、あんたの膝がだよ!
バール  白い体に酔いしれているのさ。
下宿のおかみ  白い体だって! あんたは本当に詩人だよ! でなきゃ全くの役立たずさ! 
           この子達もこんなに若いのにね! あんたたちはどうやら姉妹らしいね? 
           そんなに悲しそうに大声で泣くところを見ると、きっと可哀想な孤児なんだろうね。
           私が尻を打ってやろうか? あんたたちのその白い体を?

(バール、笑う)

下宿のおかみ  あんた、笑っていられるのかい? 自分の穴倉に引きずり込んだ娘たちを、片っ端から堕落させておきながら? 
           何てことだ、あんたはけだものだよ! ここを出て行ってもらいます。
           ところで、あんたたちもこれで目がさめたらお母さんの所へ帰りな。私も一緒に行くから。

(姉妹、いっそう激しく泣く)

63 :名前なし:2009/11/19(木) 02:32:20 ID:T00fhCy8
姉  この娘のせいじゃないわ。
下宿のおかみ  (二人の手を取って)今、雨が降っているわけじゃないし、なんて子たちなんだろう? 
           いいかい、ここへ来たのはあんたたちだけじゃないんだよ! この人は白鳥に囲まれて大得意なんだから! 
           他の白鳥も沢山幸せにしてやった挙句、皮を剥いでくずかごへぽいだからね、
           もう外の綺麗な空気にあたりに行きなさい。そこへ行けば涙を流すこともないさ。
           (二人の肩をつかんで)あたしはこの人の正体はちゃんと知っているんだよ! この人の手口もね。
           そんなにいつまでも大声で泣くのはおよし。目が腫れて泣いていたことが分かっちゃうよ。
           ちゃんと手をお手々つないで、家のお母さんのところへお帰り。こんなことは二度とするんじゃないよ。
           (彼女らをドアの方に押しやる)さあ、今度はあんただ、出て行ってもらいますよ! 
           白鳥の飼育場ならどこか他所へ行って作りなさい! (二人を押し出して、去る)
バール  (立ち上がって伸びをする)鬼婆だが、あれで結構気はいいのさ! どうせ今日は酷くやる気がないんだ。
      (原稿用紙をテーブルの方に投げ、その前に座る)新生活を始めるか。
      (原稿用紙に大きな飾り文字を書く)一つ内面的な人間になってみるとするか。俺の内面はまるで空っぽだな。
      おまけにけだものみたいに腹が減ってきた。本当に骨と皮だけだよ。鬼婆め! 
      (後にもたれかかり、力いっぱい手足を伸ばす)夏を創作してやろう。赤い真紅な貪婪な夏を。
      (再び口ずさむ。暗くなる。やがて手回しオルガンの音が聞こえてくる)

64 :名前なし:2009/11/19(木) 03:42:02 ID:T00fhCy8
(夕暮れ。バールは机のそばに座っている)


バール  (焼酎のビンを抱きしめている。間)もうこれで四日も、紙いっぱいに赤い夏を殴り書きしている。
       荒々しい、青ざめた、貪婪な夏を。そして酒瓶と格闘している。この戦いでは何度も敗北を喫した。
       しかし、女どもの肉体は壁の暗闇の中に、あのエジプトの宵闇の中に後退りして消え始めている。
       俺はその肉体を木の壁に釘付けにしておこう。しかし酒だけはもうやってはいけない。
       (饒舌になる)白い酒は俺の鞭でも支えでもある。雨樋を、とけた雪が滴り落ちるようになってからは、この酒に俺の原稿の紙がうつっている。
       酒には相変わらず手はつけていない。でも今俺の手は震えているな。まるで女の肉体を抱いているように。
       (耳を傾けて)心臓が馬の蹄のように鳴っている。(夢見るように)ああ、ヨハンナ。
       お前の水族館の中でもう一晩よけいにしたら、俺は魚たちの中で腐っていただろうな! 
       しかし今は柔らかな五月の夜の香りが、俺の心に広がっている。俺は恋人のいない恋する男だ。俺も参っていやがるな。
       (飲んで立ち上がる)出て行かなきゃならない。だがまず、女を一人都合しよう。一人で旅に出るなんて憂鬱だ。
       (窓越しに外を見る)誰だっていい! 女のような顔さえしていたら! (口ずさみながら去る)

(階下から手回しオルガンの『トリスタン』が聞こえてくる)

(ヨハネス、やつれ切った青い顔でドアから入って来る。机の上の原稿用紙をかき回す。
酒瓶を取り上げる。おずおずとドアの所に行ってそこで待つ。階段の所で騒がしい物音。口笛)

65 :名前なし:2009/11/19(木) 03:44:00 ID:T00fhCy8
バール  (部屋にゾフィー・バルガーを引きずり込む)大人しくするんだ。いい子だ! これが俺の部屋だ。(彼女を座らせる)そこで何してる?
ヨハネス  僕がしたかったのはただ……
バール  そうか? お前はしたかったのかい? そんな所にもそっと突っ立って、流れて行ってしまったヨハンナの墓石だとでもいうのかい? 
      別の世界から降ってきたヨハネスの死体なのかい? え? 放り出してやるぞ! すぐ出て行け! 
      (ヨハネスの周りを歩き回る)恥知らずもいいとこだ。壁に向かって叩き付けてやるぞ。どうせ春なんだ、行った、行った!

(ヨハネス、バールをじっと見る。バール、口笛を吹く)

ゾフィー  あの若い人はあんたに何をしたっていうの? どうか帰らせて下さい!
バール  (ドアを広く開けて)二階に降りたら右へ行くんだよ。
ゾフィー  あなたが下の戸口で私を捕まえた時、みんなが後を追いかけて来たわ。だからあたしはすぐ見つかるわよ。
バール  ここなら誰にも見つかりはしないさ。
ゾフィー  私、あなたを全然知らないわ。私をどうするつもり?
バール  そんなことを聞くなら、もう帰ってもいいぜ。
ゾフィー  あなたは往来で私に襲い掛かってきたのよ。私、オランウータンかと思ったわ。
バール  それも春だからさ。酷い穴倉に、純白のものをさらってくる必要があったんだ! 白い雲をさ!
      (ドアを開けて耳をすませる)馬鹿な連中だ。見当違いの方へ追いかけていったぜ。
ゾフィー  帰るのが遅くなったら追い出されてしまうわ。
バール  おまけにそんな様子で帰ったらな。
ゾフィー  どんな?
バール  俺に愛された後はみんなそうなるんだ。
ゾフィー  分からないわ。私、どうしてまだここを出ないんだろう。
バール  君に教えておくことがある。
ゾフィー  私が悪いことの出来る女だなんて思わないで!
バール  なぜそう思っちゃいけないんだ? 君だって女だ、他の全ての女と同じだ。顔は様々だけど、結局女はみんな膝頭が弱いのさ。

66 :名前なし:2009/11/19(木) 22:26:13 ID:3MgcNSBi
ゾフィー  (去りかけ、ドアの所で振り向く。椅子に跨って座り自分を見つめているバールに向かって)さよなら!
バール  (冷ややかに)気分でも悪いのかい?
ゾフィー  分からない、何だかとてもくらくらするの。(壁にもたれかかる)
バール  俺には分かるぜ。四月だ、暗くなってきた、そして、君は俺の匂いを感じたんだ。けものたちと同じなんだよ。
      (立ち上がって)これで君は風のものになったんだよ、白い雲の君は! 

(すばやく彼女に近寄って乱暴にドアを閉め、ゾフィー・バルガーを抱く)

ゾフィー  (息を切らして)離して!
バール  俺はバールって言うんだ。
ゾフィー  離してったら!
バール  俺を慰めてくれなきゃいけない。冬からこっちすっかり弱っているんだ。それに君はまさに女のようだ。
ゾフィー  (彼を見上げて)バールって言うの、あなた?
バール  もう帰るって言わないか?
ゾフィー  (彼を見上げながら)あなた酷く醜いわね。そう、醜いわ、ぎょっとするほど……でも……
バール  え?
ゾフィー  それがどうでもよくなってしまうの。
バール  (彼女にキスする)君の膝頭はしゃんとしているか、ええ?
ゾフィー  あなた、知ってる、私の名前? ゾフィー・バルガーというの。
バール  名前なんか忘れてしまえ。(彼女にキスする)
ゾフィー  いや……いやよ……ね、分かって、私がまだ誰からもそんなこと……
バール  触れられたことがないのか? 来いよ! (彼女を奥のベッドに連れて行き、二人で腰を下ろす)
      いいかい、この木の部屋では女たちの体が積み重なって滝のように流れていったものだ。
      しかし今は俺が、顔が欲しいんだ。夜中に外へ出よう、木や草の間で横になろう。君は女だ。
      俺は不潔になってしまった。君が俺を好きになってくれなきゃいけない。
ゾフィー  そうなの? ……あなたが好き。

67 :名前なし:2009/11/19(木) 22:27:24 ID:3MgcNSBi
バール  (彼女の胸に頭をのせて)上には空が広がり、そして俺たちは二人きりだ。
ゾフィー  でもあなた、黙って横にならなくちゃいけないわ。
バール  子供みたいに!
ゾフィー  (体を起こして)家にはお母さんがいるの、帰らなくちゃ。
バール  いくつだ?
ゾフィー  十七。
バール  それなら酷い目には慣れてるさ。
ゾフィー  もし地面が私を飲み込んでしまっても? ある晩、私が穴倉に引きずり込まれて、もう決して出てこなくても?
バール  決して? (沈黙)兄弟はあるの?
ゾフィー  ええ。みんなには私が必要なの。
バール  この部屋の空気はミルクのようだ。(起き上がり、窓のそばで)川辺の柳は濡れて雫を滴らせ、雨でもつれ合っている。
      (彼女を抱く)君の股はきっと抜けるように白いだろう。

(再び暗くなる。また中庭から手回しオルガンが聞こえてくる)

68 :名前なし:2009/11/19(木) 22:28:07 ID:3MgcNSBi
褐色の木の幹を打ちつけた白い漆喰塗りの家々


(陰にこもった鐘の音、バール、青白い顔をした酔っ払いの浮浪者)

69 :名前なし:2009/11/19(木) 22:29:15 ID:3MgcNSBi
バール  (大股に浮浪者の周りを半円を描いて歩き回る。その浮浪者廃止に腰を下ろし、青い顔で空の方を仰いでいる)
       この木の死体を壁に打ち付けたのは一体誰だ?
浮浪者  この木の死体の周りには、青白い象牙色の風が吹く、これはキリストの御聖体さ。
バール  おまけにおあつらえむきの鐘の音だ、木が死んじまったからな。
浮浪者  あの鐘の音を聞いていると、俺は道徳的に高められたような気になるよ。
バール  この木の死体を見ても打ちのめされるような気にはならないか?
浮浪者  へん、たかが木の残骸さ! (焼酎の瓶から飲む)
バール  女の体だってこれよりましってわけじゃないぜ!
浮浪者  女の体と聖体行列と何の関係があるんだ?
バール  どっちも破廉恥さ。お前は愛するってことをしないんだな。
浮浪者  白いイエスの肉体! こいつを俺は愛しているさ! (彼に酒瓶を差し上げて見せる)
バール  (前よりも穏やかになって)俺は紙に歌を書いた。しかしこんな歌なんか、今こんな時には、便所にでもかけておけばいいと思っている。
浮浪者  (悟りきった顔で)奉仕するんだ! 主イエス様にな、俺にはイエスの白い体が見える。イエスは悪を愛された。
バール  (飲む)俺みたいにな。
浮浪者  あんたはイエスと死んだ犬の話を知っているか? みんなは言っていた。
      「こりゃ悪臭ぷんぷんとした腐った犬だ! 警察を呼んで来い! とても我慢できない!」とね。
      しかしイエスは言ったぜ、この犬の歯は白くて美しい、とな。
バール  ひょっとしたら俺はカトリックに宗旨変えするぜ。
浮浪者  イエスはカトリックにはならなかったぜ。(彼から瓶を取り上げる)
バール  (また興奮して辺りを走り回る)しかし女の肉体を奴は壁に打ち付けたんだぜ、俺ならそんなことはしない。

70 :名前なし:2009/11/19(木) 22:30:49 ID:3MgcNSBi
浮浪者  壁に打ち付けたさ! 女の肉体は川を流れて行きはしなかった! 打ち付けられて殺されたのは、イエスの身代わりなのだ、白いイエスの肉体のな。
バール  (彼から酒瓶を奪い取って、彼に背を向ける)
      あんたの体の中には宗教が詰まりすぎているのか、それとも焼酎が入りすぎているのか、どっちかだよ。(瓶を持って行ってしまう)
浮浪者  (我を忘れて、彼の後から怒鳴る)それじゃあんたは、あんたの理想に殉じようとはしないんだね、旦那! 
       聖体行列に身を投じる気もないのかね? 木を愛していながら、その木のためには何もしてやらないのか?
バール  俺は川べりに降りて行って、手前の体を洗うさ。俺は死んだ体のことなど構っていられねえや。

(退場)

浮浪者  俺の体の中には焼酎が入っている。それがとても我慢できないんだ。
      それに俺はこの忌まわしい死んでしまった木を眺めているのが我慢できない。
      もっと沢山焼酎を飲めば、我慢できるかもしれないな。

71 :名前なし:2009/11/19(木) 22:52:46 ID:3MgcNSBi
五月の夜の木陰


(バール、ゾフィー)

72 :名前なし:2009/11/19(木) 22:54:11 ID:3MgcNSBi
バール  (物憂げに)雨はもうあがった。草はまだきっと濡れているだろう---この梢の葉陰には、雨は漏れてこなかったな……
      若葉はすっかり湿って雫を滴らせていたけど、この根の辺りは乾いている。
      (意地悪く)どうして草木と一緒に寝られないのかなあ?
ゾフィー  聞いて!
バール  濡れた黒い葉末を吹く風の、荒々しいざわめき! 雨が葉を伝って滴り落ちているのが聞こえたか?
ゾフィー  首に一滴かかったわ……あら、あなた、離してよ!
バール  愛は渦巻きのように体から着ているものを剥ぎ取っていく。そして、天国をのぞいた後の人間を落葉で埋めてくれる。
ゾフィー  あなたの中にもぐりこんでしまいたいわ。私は裸なんですもの、バール。
バール  俺は酔い、君はいやいやをしている。空は黒く、俺たちは体中に愛をみなぎらせてシーソーをこぐ。空は黒い。君が好きだ。
ゾフィー  ああ、バール! お母さんは今頃死体になった私のことを思って泣いているわ。私が身投げしたと思っているわ。
       もう何週間たったのかしら? あれはまだ、五月だったわ。多分もう三週間になるわね。
バール  三十年たった時、もう三週間になるわね、と木の根元で恋人は言った。その時、彼女はもう腐りかけていたのだ。
ゾフィー  捕まった獲物のように、こうして横になっているのは素晴らしいわ。頭の上には空があり、もう決して一人ぼっちじゃないんだもの。
バール  さあ、もう一度君の下着をとってしまうぜ。

73 :名前なし:2009/11/19(木) 22:55:17 ID:3MgcNSBi
ナイトクラブ『真夜中の雲』


(汚らしいナイトクラブ。白塗りの楽屋。後方下手に暗褐色の幕。上手わきに便所に通じる白塗りの板戸。上手奥にドア。
そのドアが開くと青い夜が見える。奥のクラブでソプラノ歌手が歌っている。バール、上半身裸で、飲みながら歩き回り、ハミングしている)

74 :名前なし:2009/11/19(木) 22:57:29 ID:3MgcNSBi
ループー  (黒いてかてかした髪の太った青い顔の若者。左右に分けた長髪が汗をたらした青い顔に軽くかかっている。
        後ろ向きになって右手のドアの内側に立っている)またランプを叩き落した奴がいるぜ。
バール  こんなクラブに出入りする客は下司な奴らばかりだ。俺の貰う分の酒はどうした?
ループー  あんたが、またすっかり飲んじまったじゃありませんか。
バール  気をつけてものを言え!
ループー  ミュルクさんが、あんたは底なしの沼だと言っていたよ。
バール  それは俺に酒をよこさないということか?
ループー  番組を済ますまではもう飲ませてはいけないといってましたよ。お気の毒ですがね。
ミュルク  (幕の所で)お前は引っ込んでな、ループー!
バール  約束しただけは酒をくれ、ミュルク、でなきゃもう歌わないぜ。
ミュルク  そんなに飲んじゃ駄目だ。そんなに飲んでたら、そのうちまるで歌えなくなってしまうぞ。
バール  酒を飲めなければ歌う意味はないや。
ミュルク  あんたの番組は、ザヴェトカのソプラノと並んで、この『真夜中の雲』の看板なんだ。私はあんたを、自分の手で掘り出した。
       あんたみたいなこんなデブの肉の塊の中にこれほど繊細な魂の宿ったことなんてこれまでにあったかね。
       あんたが成功したのはその肉の塊のおかげであんたの歌のせいじゃない。あんたにそう飲まれたらわしは破産だよ。
バール  ちゃんと契約で貰えることになっている酒まで飲ませてもらえないんで、毎晩そのために喧嘩口論なんて俺はもううんざりだ。おれはずらかるぜ。
ミュルク  俺は警察にコネがあるんだ。また一晩くらいはくらいこませてやるぞ。あんた、這い回るような体たらくじゃないか。
       あんたの情夫は外の風にあててやんな! (客席の中で拍手の音)ほら、あんたの番組だよ。
バール  もうつくづくいやになった。
ソプラノ歌手  (青白い無表情なピアニストと共に、カーテンからでて)さあ、すんだわ!
ミュルク  (バールにフロックコートを押し付ける)わしの店では、半裸で舞台に出られちゃ困るよ。
バール  馬鹿野郎! (フロックコートを投げ捨て、ギターを引きずって幕を開けて出て行く)

75 :名前なし:2009/11/19(木) 23:10:46 ID:3MgcNSBi
ソプラノ歌手  (座って飲む)彼は同棲している恋人がいるので、それで働いているのよ、天才だわ。
          ループーが彼の真似をするなんて、おこがましいわ。あいつったらあの人の態度ばかりか恋人まで盗んでしまったのよ。
ピアニスト  (トイレの板戸にもたれて)奴の歌は素晴らしいさ。だけどここじゃ酒の分け前のいざこざで、
        この十一日間ってもの、毎晩ループーととっつかみ合いをしているんだ。
ソプラノ歌手  (がぶ飲みする)あたしたちの暮らしも惨めなものさ。
バール  (幕の向こうで)俺はつまらない男、清らかな心の男、いつも楽しくしていたい。

(拍手。バール、ギターに合わせて続ける)

部屋を風が吹き抜けていった
子供が青いスモモを食った
その柔らかくて白い肉を慰みに
そっと そこいらに転がしておいたとさ

(客席の中で喝采の声、非難の声が起こる。バールは歌い続けるが歌はますます露骨になるので騒ぎがだんだん大きくなっていく。ついに客席は凄まじい混乱に陥る)

ピアニスト  (感情を全く示さずに)驚いたな、あいつはやってのけたぜ。救急車を呼ばなければならん騒ぎさ。
        今ミュルクの野郎が喋っているけど、客は奴を八つ裂きにしてしまうだろう。あの男は客に露骨な描写をしたんだ。

(バール、カーテンから出てくる。ギターを後に引きずっている)

ミュルク  (彼の背後で)あんたはけだものだ。いためつけてやるぞ。自分の番組だけ歌ってればいいんだ! 契約通りに! さもないと警察に言いつけてやるぞ。(ホールに戻る)

(バール、自分の首を締めるような真似をして上手にある便所のドアの所へ行く)

ピアニスト  どこへ行くんです?

(バール、彼を押しのける。ギターを持ち、ドアを通って去る)

76 :名前なし:2009/11/19(木) 23:12:04 ID:3MgcNSBi
ソプラノ歌手  あんた、ギターを持ってトイレに入るの? 素晴らしいわ!
客たち  (首を突っ込んで)あの下司野郎はどこだ? 続けて歌わせるんだ! まだ休憩じゃないぜ! 忌々しい下司め! (ホールに戻る)
ミュルク  (入って来て)わしは客に向かって救世軍の仕官のように話し掛けたんだがね。警察に頼んだ方がいい。
       客の奴ら、あいつをまた出せって大騒ぎだ。奴はどこへ行った。舞台に出てもらわなきゃならない。
ピアニスト  看板役者は便所に出て行きましたぜ。(後の方に向かって叫ぶ)バール!
ミュルク  (便所の戸をどんどん叩く)おい君、そんなに勿体ぶるなよ。畜生、便所の閂をかけて篭城なんて許さないぞ。
       今この時間に対してだって、わしは賃金を払っているんだ。契約書にもちゃんと書いてある。
       君は高等詐欺師だな! (陶酔するように戸をどんどん叩く)
ループー  (上手のドアの所で。青い夜が見える)便所のドアが開いてます。禿鷹は飛んで行っちまった。酒が飲めなきゃ歌わないか。
ミュルク  空っぽか? 逃げやがったか? 便所から抜け出したのか? 人殺しめ! 警察に頼もう。(飛び出して行く)
叫び声  (舞台の奥の方からリズミカルに)バール! バール! バール!

77 :名前なし:2009/11/19(木) 23:13:03 ID:3MgcNSBi
緑の草原 青いスモモの木


(バール、エーカルト)

78 :名前なし:2009/11/19(木) 23:14:09 ID:3MgcNSBi
バール  (ゆっくり草原を通って行く)空が緑を増し、孕んだように膨らんできてからは、七月の大気だ、風が立つ。
      ズボン一丁でシャツもなしだ。(エーカルトの方に戻って)俺の剥き出した股を風が擦って行く。
      俺の頭の中は風で泡立ち、腋の下の毛にも草原の香りが染み込んでいる。大気は風に酔いしれたように震えている。
エーカルト  (彼の後で)なぜスモモの木陰から象みたいに飛び出していったんだ?
バール  俺のこめかみに手を置いてみろ! 脈がうつたびに膨れ上がっちゃ、泡みたいにまたへこむだろう。手で触ると感じるだろう?
エーカルト  いや。
バール  お前には、俺の魂のことは何も分かっていない。
エーカルト  水に体をつけて横になろう。
バール  俺の魂は、兄弟、風にのしかかられてのた打ち回る麦畑の呻きだ。共食いしようとする二匹の昆虫の目の輝きだ。
エーカルト  くたばることのないはらわたの持ち主、七月のように狂った男、それがお前だ。お前はいつかは澄んだ空に油のしみを残していく肉団子よ。
バール  そんなのは紙に書いた、ただの言葉さ。それでも別に構わないよ。
エーカルト  俺の肉体は風に揺れる小さなスモモのように軽い。
バール  それは青白い夏の空のせいさ。青い沼の生温い水に浸かって、スポンジみたいに含もうか? 
      そうでもしておかないと、白い田舎道が天使の投げたロープのように、俺たちを天国に引っ張り込んでしまうぞ。

79 :名前なし:2009/11/19(木) 23:17:22 ID:3MgcNSBi
村の居酒屋 夕方


(農夫たちがバールを取り囲んでいる。片隅にエーカルト)

80 :名前なし:2009/11/19(木) 23:32:37 ID:3MgcNSBi
バール  あんたたちみんなに、まとまってここで会えるのは好都合だ! 俺の兄貴が、明日の晩ここへ来る。それまでに雄牛を集めておかなきゃいけないんだ。
農夫1  (ぽかんと口を開けて)でも、あんたの兄さんが欲しがっている牛かどうか、どうして分かるかね?
バール  それは俺の兄貴にしか分からないさ。ともかく見事なやつばかりにしてくれ。でなきゃ、何の値打ちもないからな。焼酎一杯、亭主!
農夫2  あんたたち、すぐ買ってくれるかね?
バール  一番腰の強いやつを買うさ。
農夫3  十一の村から、みんなが雄牛を連れてやってきますぜ。あんたが払うと言っている値段ならね。
農夫1  俺の雄牛を見てくださいや!
バール  おい亭主、焼酎一杯!
農夫たち  俺の牛が一番だぞ! 明日の晩って言いなさったね? (彼ら出かける)あんたがた、ここにお泊りかね?
バール  ああ、一つベッドにな。(農夫たち去る)
エーカルト  お前、一体どういうつもりなんだ? 気でも狂ったのか?
バール  まさに素敵だったぜ。奴らは目をぱちくりさせて口をぽかんと開け、やっと話を飲み込むと早速そろばんをはじき出したよ。
エーカルト  少なくとも俺たちは、それで二、三杯の焼酎にありつけたってわけか。じゃあ、さっそくずらからなきゃ!
バール  今ずらかるって? お前、気は確かか?
エーカルト  ああ、そういうお前は狂ってないのか? 雄牛の話のことを考えてみろ!
バール  ああそうさ。俺が連中を騙したのは何のためだと思う?
エーカルト  二、三杯の酒にありつけるためじゃないのか?
バール  夢でも見てるのか! お前に飛び切りのお楽しみを見せてやりたいのさ、エーカルト。(彼は後の窓を開ける。暗くなっている。また座る)
エーカルト  たかが六杯くらいで酔っ払いやがって、恥ずかしくないのか!
バール  きっと素晴らしい眺めだぜ。俺はこういう間抜けな奴らがすきなんだ。お前にありがたいお芝居を見せてやるぞ、おい! 乾杯だ!

81 :名前なし:2009/11/19(木) 23:34:04 ID:3MgcNSBi
エーカルト  お前は、本当の自分以上に純真に見せるのが好きな奴さ。そんなことをすれば、その憐れな奴らに頭をぶちのめされるぜ、俺もお前も。
バール  奴らはそうやって自分も利口になるだろうさ。俺は、こういう暖かい晩には、ある種の優しさを込めて奴らのことを考えるんだ。
      奴らは誤魔化すつもりでやって来る。それも奴らの単純なやり口でな。それが俺には面白いのさ。
エーカルト  (立ち上がる)それじゃ牛か俺かどっちかだ。亭主に嗅ぎ付けられないうちに、俺は出て行く。
バール  (陰鬱に)今夜はやけに暖かだな。もう一時間だけいろよ。そうしたら一緒に行くぜ。分かってるだろ、俺がお前を好きだってことは。
      あの畑の肥やしがここまで匂ってくるな。雄牛のことを仕切っているあの亭主はもう一杯人を振舞うと思うか?
エーカルト  おい、足音だぜ。
神父  (入って来てバールに)こんばんは。雄牛を買いたいというお方はあなたですか?
バール  私ですよ。
神父  一体何のためにあなたはこんなペテンを仕組まれるのです?
バール  この世界は全てペテンですよ。乾草のむせ返るような匂いがしてくる! 晩にはいつもこんなに匂うんですか?
神父  あなたの世界は大変惨めなようですね?
バール  僕の空は樹木と女の体でいっぱいですよ。
神父  そんな言葉は口にしないで下さい! この世は、あなたのサーカス小屋ではありませんよ。
バール  それじゃ、この世は一体何なのですか?
神父  ここを出て行きなさい。いいですか。私は善意に溢れた人間です。このことを根にもったりしませんよ。この件は全て片付けておきました。
バール  正しい人間にはユーモアってものがないな、エーカルト!

82 :名前なし:2009/11/19(木) 23:35:16 ID:3MgcNSBi
神父  で、あなたは、自分の計画が酷く子供っぽいということに、気付かないのですか? (エーカルトに)この人はどういうつもりなんですか?
バール  (後にもたれかかって)夕方の黄昏の中で---もちろん夕方とこなくちゃいけないぜ、それには雲がなくちゃ。
      大気は生温く、ほんの少し風が吹いている、雄牛どもがやって来るんだ。そいつらは、あらゆる方向から、のしのしとこっちへやって来る。
      すごい眺めだぜ。その時牛どもに囲まれた憐れな人間どもは、この雄牛をどうしていいか分からなくなる。
      見当もつかなくなる。ただすごい眺めにありつくわけだ。俺は見当違いした連中も好きなんだ。
      どこへ行ったらこんなに沢山の動物が集まるのを眺められるって言うんだ?
神父  じゃ、そのためにあなたは、七つもの村の連中をかり集めようとしたのですか?
バール  この眺めに比べれば、七つの村なんてどうってことはない!
神父  やっと分かりましたよ。あなたは憐れな人間だ。多分、特に雄牛がお好きなんでしょう?
バール  行こうぜ、エーカルト! こいつのおかげで話が台無しだ。キリスト教徒はもう動物を愛してはいないのさ。
神父  (笑って、それから真面目に)だからあなたにそんなことはさせません。さあ、出て行きなさい。
     もう人目につくようなことはしないで! 私は、あなたに、少なからず奉仕をしてあげたつもりですよ、ねえ!
バール  行こうぜ、エーカルト! お前にお楽しみも見せられなくなったぜ、兄弟!

(エーカルトと共にゆっくりと去る)

神父  さようなら! ご亭主、私があの人たちの酒代を払いますよ!
亭主  (テーブルの向こうで)焼酎十一杯分でさあ、神父さん。

83 :名前なし:2009/11/19(木) 23:42:24 ID:3MgcNSBi
夕暮れの森


(六、七人の木こりが木に寄りかかって座っている。その中にバール。草の中に死体が一つ)

84 :名前なし:2009/11/20(金) 00:04:29 ID:3MgcNSBi
木こり1  樫の木でやられたんだ。奴はすぐには死ななかった。しばらく苦しんでたぜ。
木こり2  今朝は、また奴は、天気が具合よくなってきたって言っていたのにな。
      あいつは木の緑にちょっと雨のお湿りがあるのが好きだったんだ。木があんまり乾きすぎていないのがな。
木こり3  いい野郎だったぜ、テディって奴は。奴は昔はどこかに、小さな店を持っていたんだ。これが奴の全盛期よ。
      その頃は、坊主みたいに太っていた。だけど、女にいれあげて店を潰してここへ流れて来やがったんだ。
      それで年とともに太鼓腹も萎びたってわけさ。
木こり4  あいつ女とのいざこざの話は一度もしなかったのか?
木こり3  ああ、また山を降りて行く気があったかどうかも分からねえ。
      あいつはかなり貯め込んでいたけど、そりゃあいつが慎ましく暮らしていたせいだろうよ。
      この山では誰も本当のことを言う奴なんかいないさ。その方がずっと気が楽さ。
木こり1  一週間前、冬になったら、北へ登って行くって言っていたぜ。どこかそっちの方にぼろ小屋を持っていたらしい。
      あいつ、お前にはどこか言わなかったか、おい象野郎?
バール  放っておいてくれ、俺は何も知らねえ。
木こり4  また手前の考えにふけっていたわけか、え?
木こり2  こいつには全く信用がおけねえ。覚えているだろう、こいつ、俺たちの靴を、
      一晩中濡れる所へぶら下げていたおかげで、俺たちは森へ行けなくなっちまったんだぜ。
      それもみんなこいつが例によって怠けていたせいだ。
木こり5  奴は、金のために仕事はしないとよ。
バール  今日は喧嘩は止めてくれ! 可哀想なテディのことを少しは考えてやることはできないのか?
木こり1  奴がすっかりくたばった時、お前はどこにいたんだ?

(バールは起き上がり、草の上を横切り、よろよろとテディの側に行く。そこに腰を下ろす)

85 :名前なし:2009/11/20(金) 00:05:58 ID:+4jwXW6+
木こり4  バールはしゃんと立って歩けねえぞ、みんな。
木こり5  あいつはもう放っておけ! 象野郎にもショックなのよ!
木こり3  全くお前ら、今日ぐらい静かにしてもよさそうじゃねえか。奴の骸が転がっているうちはな。
木こり5  お前、テディをどうしようってんだ、象野郎?
バール  (彼の上に身を屈めて)こいつは安らかに眠っている。俺たちは安らかに眠っていない。どっちも結構じゃねえか。
      空は黒い。木々は震えている。どこかで雲が湧き上がってくる。これが舞台装置だ。
      人間は食うことができる。眠ったら目を覚ます。奴は違う。俺たちはそうだ。こいつは二重に素晴らしいぜ。
木こり5  空がどうだって?
バール  空は黒い。
木こり5  お前は頭がいかれているなあ。いつだって死ぬべきでない奴が真っ先に死に見舞われるんだ。
バール  そうさ、そりゃ不思議なことさ、あんたの言う通りだよ。
木こり1  バールみたいな奴は長生きするぜ。この野郎は仕事をやっている所には近づかないんだからな。
バール  それにひきかえ、テディはよく働いたな。気前もよかった。人付き合いもよかった。
      そのあいつの残したものは一つだけ、「昔テディって奴がいたっけな」という言葉だけさ。
木こり2  あいつ、今頃、どこにいやがるんだろうな?
バール  (死人を指差して)ここにいるさ。
木こり3  俺はいつも思うんだ。憐れな魂ってのは風なんだってね。ことに早春の晩のさ。でも秋の風だってそうだと思う。
バール  それから夏の風、太陽、穀物、畑の上を渡る風。
木こり3  そいつはぴったりしないよ。暗くなくちゃいけない。
バール  暗くなくちゃいけないさ。

(静寂)

86 :名前なし:2009/11/20(金) 00:07:23 ID:+4jwXW6+
木こり1  あいつ、本当に、どこへ行ってしまうのかなあ?
木こり3  あいつはあいつを必要とする人間なんか一人も持っていなかった。
木こり5  あいつは自分一人だけでこの世に生きていたんだ。
木こり1  奴の持ち物はどうする?
木こり3  大してないな。金は銀行かどこかに預けていたぜ。奴がこの世にいなくなっても
      金は銀行に預けられっぱなしってわけさ。お前何か知恵はないか、バール?
バール  奴はまだ臭ってこないな。
木こり4  おい、みんな、いいことを思いついたぞ。
木こり5  言ってみろよ!
木こり4  象野郎じゃなくたって知恵は浮かぶぜ。どうだ、テディの冥福を祈って一杯やるのは?
バール  それはたしなみがないぞ、ベルクマイヤー。
木こり5  馬鹿馬鹿しい。たしなみだって---ところで何を飲めばいいんだ? 水か? よくも恥ずかしくねえな、こいつ、下らないことを。
木こり4  焼酎よ!
バール  その案なら賛成するぜ、焼酎なら真っ当だ。その焼酎はどうする?
木こり4  テディの焼酎よ。
木こり5  テディの? それなら話は分かる---配給の分か? テディの奴はけちけち飲んでいたからな。間抜けにしてはいいとこに気がついたぜ。
木こり4  すごく冴えてるだろう。どうだ! お前ら血の巡りの悪い頭に分けてやりたいぜ。
      テディの弔いはテディの焼酎でやろうぜ! 安上がりでしかもこの場に相応しい! 
      もう誰かテディに弔辞を述べてやったか? それこそやってやらなきゃいけねえことだ。
バール  俺がやった。
数人の木こり  いつ?
バール  さっきよ。お前たちが、馬鹿げたことを喋りだす前さ。弔辞の始まりはこうだった。
      「テディは安らかに眠っている」……お前たちは何でも済んでしまってから始めて気がつくんだな。
木こり5  薄ら馬鹿が何をぬかす---焼酎を取って来よう。
バール  恥ずかしくないのか!
木こり2  ほほう! そりゃまた何故だ、象野郎め!

87 :名前なし:2009/11/20(金) 00:08:40 ID:+4jwXW6+
バール  それはテディの持ち物だ。小さな酒瓶の栓だって抜いちゃいけねえ。テディには女房もあるし、五人の可哀想な孤児もいるんだ。
木こり4  四人だ、四人だけだ。
木こり5  突然荒れだしやがった。
バール  テディの五人の憐れな孤児から、憐れな親父の焼酎をかっぱらって飲んでしまう気か? それが仏心ってものなのか?
木こり4  四人だ。孤児は四人だぞ。
バール  テディの四人の孤児の口から焼酎を取り上げて飲んでしまう気か?
木こり1  テディには、家族なんか、全然いなかったぜ。
バール  でも孤児がいるんだ、なあ、諸君、孤児がね。
木こり5  お前たちは、この気狂い象にからかわれているんだ、いいか、テディの孤児がテディの焼酎なんか飲むと思うか! それはテディの持ち物さ……
バール  (さえぎって)だったんだ……
木こり5  だからってどうだっていうんだ?
木こり1  こいつは戯言を言っているだけだよ。正気をなくしちまっているのよ。
木こり5  俺は言いたいぜ。そりゃテディの持ち物だった、だから、俺たちが払えばいいんだ。
      金をな、ちゃんとした金をな、なあ、みんな。そうすれば、孤児もなんとかやっていけるさ。
一同  そいつはいい案だ。象の負けだ---焼酎が欲しくないなんて、奴は気が狂ったに違いない。こんな奴放っておいて、テディの焼酎を飲みに出かけようぜ!

88 :名前なし:2009/11/20(金) 00:11:02 ID:+4jwXW6+
バール  (彼らの後の方から叫ぶ)少なくとももう一度舞い戻って来い! 罰当たりの死体泥棒め! (テディに)憐れなテディ! 
      それに今日は、木々がとても力強く見える。空気は素晴らしく柔らかい。俺の心はいっぱいに膨らんできた。
      憐れなテディ、お前くすぐったくないか? お前は完全に片付いた、まあ、俺に喋らせろ、そのうち臭いがしだしてくるだろう。
      そして風が吹きすぎていく。全ては過ぎ去っていく。お前の小屋もな。そいつはどこにあるか俺は知っているが、
      お前の持ち物だって生きている奴らが取り上げてしまうんだ。お前はそいつを見捨て、ただただ永遠の憩いを求めたんだからな。
      昔はお前の体はこんなに酷くなかったな、テディ、なに、今だってまだそう酷くはなっていない。
      ほんのちょっと潰れているだけだ。片っ方の側がな、それに足もだ。こんな足じゃあ、女たちとはどうせもう何も出来なかったろう。
      こんな足で女に乗っかるわけにはいかないもんな。(彼は死体の足を持ち上げる)しかし、こんなになった体でだって、
      その気になれば何とか生きていけたんだ。でもお前の魂は酷くお高くとまっていやがったからな。
      この世の仮の住まいはぶち壊されちまった。鼠は沈没する船を見捨てるっていうからな。
      お前は、ただお前の生き方の犠牲になったのさ、テディ。

89 :名前なし:2009/11/20(金) 00:33:03 ID:+4jwXW6+
木こり5  (戻って来る)おーい、象野郎め、思い知らせてやるぞ! テディのぼろベッドの下の、一体どこにブランデーの瓶があるんだよ、おい? 
       俺たちが憐れなテディの面倒を見てやっていた時、お前はどこにいたんだ、ええ、旦那? 
       テディが、まだ完全に死んではいなかった時のことよ、旦那? その時、お前はどこにいやがった? 
       この豚野郎! 死体をあさりやがったな! テディの孤児の保護者だって、ふん?
バール  何も証拠はないぜ、諸君!
木こり5  じゃあ、ブランデーはどこにある? お前の結構なご意見じゃ。瓶が中身を飲んでしまったとでも言うのか? 
      こりゃえらく重大な問題だぞ、おい、ちょっと立ってみろ、おい、立てって言ってるんだ! 
      それで真っ直ぐ四歩歩いてみろ、それから言えるなら言ってみろ、震えてもいないし、外見も中身もちっとも狂っちゃいねえってな。
      汚い野郎め! こいつを立たせろ、ちょっとくすぐってやれ、みんな、テディの憐れな名誉を汚しやがったんだぞ! (バール、立たされる)
バール  ごろつきどもめ! せめてこの憐れなテディを踏みつけるな! 
      (彼は腰をおろして死体の腕を自分の腕に抱えあげる)もしお前たちが、俺に何かしやがったりしたら、テディの死体を前にぶっ倒すぞ。
      それじゃ死体が可哀想じゃないか? 俺は正当防衛をしているんだ。お前たちは七人、しちにんで、しかも酔っ払っていない。
      ところがこの俺はただ一人で、しかも酔っ払っている。これが綺麗なやり方か、卑怯だぞ、
      七人で一人にかかるなんて? 頭を冷やせ、テディだってこんなに冷え切っている。
数人の男  (悲しそうに、或いは興奮して)この野郎には神聖なものなんてねえんだ。
        神様、こいつの酔っ払った魂をお恵み下さい! こいつは神様の御手の中にいてもまだじたばたしているしたたかな罪人よ。

90 :名前なし:2009/11/20(金) 00:34:29 ID:+4jwXW6+
バール  座れよ、俺は抹香臭いことは嫌いだ。いつの世にだって利口な奴と頭の弱い奴がいるものだ。
      だからこそ仕事にだって、上等な労働ってものがあるのよ。お前らも知っている通り、俺は頭のある労働者だ。
      (タバコを吸う)君らには本当の意味の尊敬の念というものがなかったんだ。
      いいか! 上等の焼酎を飲んだって、お前らの考え出すことと着たらたかが知れている。
      ところが俺なら、ちゃんといろいろなことが分かるようになるんだ。そうなんだよ! 
      俺はテディにとても大事なことを話してやっていたんだ。
      (彼は胸のポケットから紙を取り出し、それを見つめる)ところがお前らときたら、つまらぬ焼酎欲しさに、ほいほいいってしまう。
      座れったら、梢の間に見える空をじっと見つめてみろ、今暗くなりかけている。
      あれが何でもないっていうのか? だったらお前らは宗教心なんてひとかけらも持てやしないぞ!

91 :名前なし:2009/11/20(金) 00:35:36 ID:+4jwXW6+
小屋


(雨の音が聞こえる。バール、エーカルト)

92 :名前なし:2009/11/20(金) 00:40:23 ID:+4jwXW6+
バール  白い肉体を黒い泥沼につけているってとこだな。
エーカルト  お前はまだ、あの肉体の魂を連れに行ってやらないのか?
バール  どうやらお前は、自分のおミサで忙しかったらしいな。
エーカルト  俺のミサのことなんかどうでもいい、自分の女のことを考えろ! お前、あの女をまたどこに追い払ったんだ、こんな雨の中を?
バール  あいつは俺たちの後を、絶望したように追いかけてきて、俺の首っ玉にぶら下がりやがるからな。
エーカルト  お前だんだん深みにはまっていくな。
バール  俺が重すぎるからさ。
エーカルト  まさか自分が野垂れ死にするとは思っちゃいないだろうな?
バール  俺は素手でも戦い抜くぞ。皮を剥がれても生き延びる、足の先に潜り込んでも粘り抜くさ。
      そして牝牛のように倒れる、草の中へ、一番柔らかそうな所へ。死を一飲みして平気な面をしていてやる。
エーカルト  ここにごろごろしだしてから、お前ますます太ってきやがったな。
バール  (右手をシャツの下に入れ、左の腋の下に持って行く)ところが、俺のシャツは、だんだんゆるくなってきた。
      汚れれば汚れるほど、たるんでくるんだ。もう一人くらいたっぷり入りそうだ、ただし太っていない奴だが。
      だけど筋骨逞しいお前が、なぜまたのらくらしているんだ?
エーカルト  俺の頭の中には、何かこう空みたいなものが広がっている。恐ろしく高い空。
        その空のもとで様々な思いが、雲のように鮮やかに、風に流れていく。
        どっちへ流れて行くかも決まっていない。だけどそれはみんな俺の中にあるんだ。
バール  それは、精神錯乱だぞ。お前はアル中だ。分かっただろう、その報いが来たんだよ。
エーカルト  錯乱に襲われたなら自分の面を見て分かるはずだ。
バール  お前の面なら四方八方から風が吹き抜けそうだぜ、すけすけの凹面体だからな。
      (彼を見つめる)お前には面がないじゃないか。お前はゼロだ、透明人間だな。
エーカルト  どうせ、俺はだんだん数学的になっていくさ。

93 :名前なし:2009/11/20(金) 00:41:14 ID:+4jwXW6+
バール  お前の話を聞いた奴は、まだ誰もいない。なぜ自分のことをちっとも話さないんだ?
エーカルト  俺には、話なんてできっこない。外を誰か歩いているぞ。
バール  お前は耳がいいな。お前は腹に一物あるくせに、それを隠している。お前は悪党だ、俺と同じだ。
      悪魔のような奴だ。しかしいつか一巻の終わりになるぜ、そうしたらお前も善人に戻るだろうさ。

(ゾフィー、戸口に現れる)

エーカルト  ゾフィー、あんたか?
バール  お前、また、何の用だ?
ゾフィー  もう入ってもいい、バール?

94 :名前なし:2009/11/20(金) 01:02:21 ID:+4jwXW6+
平地 空

95 :名前なし:2009/11/20(金) 01:03:26 ID:+4jwXW6+
ゾフィー  膝が抜けそうだわ。どうして絶望した人間みたいに走っていくの?
バール  お前が俺の首に、石臼のようにぶら下がるからさ。
エーカルト  自分でお腹を大きくしておいて、その女に、どうしてこんな仕打ちができるんだ?
ゾフィー  私が欲しかったのよ、エーカルト。
バール  こいつが自分で欲しがったのさ。そして今、俺のお荷物になっているんだ。
エーカルト  そいつはむごいぜ。そこへ座れよ。ゾフィー。
ゾフィー  (座る)あの人を止めないで!
エーカルト  (バールに)この女を道端に放り出して行く気なら、俺は一緒に残るぞ。
バール  そいつは、お前と一緒にいやしないぜ。でもお前が俺を見捨てるっていうなら、それもこの女のためによ、そいつは全くお前らしいぜ。
エーカルト  お前は二度も俺が女と寝ているベッドから俺を追い出した。俺の女たちはお前を冷たくあしらった。
        それでもお前は、俺の女を奪い取りやがった、俺はそいつらを愛していたのに。
バール  お前が女を愛していたから盗んでやったんだ。俺は二度も、死体のように冷たい女を犯した。
      それもお前を清らかな男にしておきたかったからだ。俺にはその必要がある。
      誓って言うが、俺は侵していても快楽なんか感じなかったんだ。
エーカルト  (ゾフィーに)この野獣よりもたちの悪い奴を、あんたはまだ愛しているのか?
ゾフィー  どうしようもないのよ、エーカルト。私、この人の死体をまだ愛しているの、私を殴る拳骨さえ好きなの。どうしようもないわ、エーカルト。
バール  俺が豚箱に入っていた時、お前らがなにをやっていたか、知る気はないぜ。
ゾフィー  私たちは一緒に白い牢屋の前に並んで、あなたのいる辺りを見上げていたわ。
バール  一緒だったんだな。
ゾフィー  いけなかったならぶって。
エーカルト  (怒鳴る)お前、この女を俺に押し付けなかったというのか?
バール  あの頃はまだ、お前を奪われてもよかったんだ。
エーカルト  俺はお前のような象みたいに厚い皮は持っていないぞ!
バール  だからこそ、俺はお前が好きなのさ。

96 :名前なし:2009/11/20(金) 01:04:53 ID:+4jwXW6+
エーカルト  それなら少なくともこの女がそばにいる間は、汚らわしい口を閉じていろ!
バール  この女を厄介払いしなきゃな! こいつ結構悪くなりやがったぜ。
      (両手を首に当てて)こいつは自分の汚れた肌着を、お前の涙で洗濯していやがる。
      俺たち二人の間をこいつが裸で駆け回ってやがるのがまだ分からないのか? 
      俺は苦しみに耐える子羊だ。俺は自分の肌を脱ぎ捨てることが出来ないのだ。
エーカルト  (ゾフィーのわきに座る)おふくろのところに帰れよ。
ゾフィー  そんなことできやしないわ。
バール  こいつには、できやしねえとよ、エーカルト。
ゾフィー  ぶちたいのなら、ぶってちょうだい、バール。もっとゆっくり歩いてなんてもう言わないから。
       そんなつもりじゃなかったのよ。足の続く限り、あんたについて行くわ。それから寝る時は木の陰で寝るわ。
       そうすれば、あなたの目障りにもならないし。でも、私を追い払わないで、ね、バール。
バール  膨らんだ腹で川の中にでも寝るんだな。お前は、俺に唾を吐きかけてもらいたいんだろう。
ゾフィー  ここで私を置いてきぼりにしたいの、それともここではまだ放り出さないつもり? 
       まだどっちか決めてないのね、バール。あなたは子供みたいな人だからそんな風に考えるのね。
バール  俺はもうお前には本当にうんざりしたぜ。
ゾフィー  でも、夜が、夜が怖いわ、バール。私、一人だと怖いの。暗闇が怖い。真っ暗だと本当に怖いの。
バール  自分の腹を見てみろ、そんな腹をした奴には誰も何もしない。
ゾフィー  でも、夜が怖い。せめて夜まで私のそばにいてくれない?
バール  船頭の溜まり場に行くといい。今日はヨハネの祝日だ。あそこでは、みんなが飲んでいるぜ。
ゾフィー  せめてあと十五分。
バール  来いよ、エーカルト!
ゾフィー  私は、一体、どこへ行けばいいの?
バール  天国にでも行きな、恋人さんよ!
ゾフィー  お腹の赤ちゃんも?
バール  餓鬼なんぞ埋めちまえ。
ゾフィー  お願い、二度とそんなことを考えないで、今言ったようなことを決して考えないで、あんたの好きなこの大空の下で。

97 :名前なし:2009/11/20(金) 01:06:27 ID:+4jwXW6+
エーカルト  俺は君と残る。そして君のおふくろの所へ連れて行ってやるよ、こんなけだものみたいな奴をもう愛する気はない、と言ってくれさえしたら。
バール  こいつは、俺に惚れてるさ。
ゾフィー  私は愛してるの。
エーカルト  まだそこに突っ立ってやがるのか、おい、けだものめ。お前には、膝があるんだろう? 
        焼酎か詩にでも酔っぱらってやがるのか? けだものめ、くたばりぞこないめ。
バール  馬鹿め!

(エーカルト、彼に飛び掛る。彼らはつかみ合う)

ゾフィー  ああ、どうしよう! 猛獣みたい!
エーカルト  (争いながら)彼女が林の中で言ったことがお前には聞こえなかったのか? 
        もう暗くなるって言ったんだぞ! けだものめ、くたばりぞこないめ!
バール  (飛び掛って、エーカルトを押さえつける)さあ、俺の胸をおっつけてやるぞ。俺の臭いがするだろう? 
      お前は俺のものだ。女を側においておくよりももっといいことがあるんだぞ。
      (止める)林の上に、もう星が見えてきたぜ、エーカルト。
エーカルト  (空を見上げているバールを凝視して)俺はこのけだものを殴ることが出来ない。
バール  (彼に腕を回して)暗くなるぞ。今夜のねぐらを見つけなきゃならない。
       森の中に風の入ってこない谷間がある。来い、いろんなけだものの話をしてやる。

(彼はエーカルトを引っ張って去る)

ゾフィー  (暗闇に一人残されて)バール!

98 :名前なし:2009/11/22(日) 01:37:51 ID:k4VU/OdI
褐色の木造りのぼろ酒場


(夜。風。テーブルの傍らにグーグー、ボルボル。年老いた乞食と箱の中に子供を連れ込んでいるマヤ)

99 :名前なし:2009/11/22(日) 01:39:03 ID:k4VU/OdI
ボルボル  (グーグーとカルタをしている)もう金がねえ。魂をかけてやろうぜ!
乞食  風の野郎が中に入りたがっているぜ。でも俺たちは、冷たい風なんて奴のことは知っちゃいねえさ。

(子供、泣く)

マヤ  (女乞食)しぃっ! うちの周りを何かうろついているよ、森の野獣だったらどうしよう!
ボルボル  どうしてだ? お前、盛りがついてるのか? (門を叩く音がする)
マヤ  ほーら! あたしは、開けないよ。
乞食  お前、開けな。
マヤ  いやだよ、いやだってば、マリア様にかけてもごめんだよ。
乞食  出て行けよ、マドンナ。開けなよ。
マヤ  (ドアの所に這い寄る)外にいるのは誰?

(子供、泣く。マヤ、ドアを開ける)

バール  (エーカルトと共に入って来る、雨でずぶ濡れになっている)ここは病人じゃないとは入れない酒場か?
マヤ  そうだよ、だけど、ベッドは空いてないよ。(いっそうずうずうしく)それに私は、病気なんだよ。
バール  俺たちはシャンペンを持ってきたぜ。(エーカルトはストーブの方へ行っている)
ボルボル  こっちへ来な! シャンペンってものをご存知の奴なら仲間にしてもいいぜ。
乞食  ここにおいでのお歴々はみんな高級な人ばかりだぜ、あんた。
バール  (テーブルの側に寄りながら、ポケットからグラスを二つ取り出す)ふん?
乞食  何だか怪しいな!
ボルボル  どこからシャンペンをかすめて来やがったか、分かってらあ。でも密告したりはしないぜ。
バール  さあ、エーカルト! ここにもグラスはあるのか?
グーグー  俺は自分のコップを使うぞ。
バール  (疑わしげに)シャンペンなんか飲んでもいいんですかい?
グーグー  いただきますよ! (バール注ぐ)
バール  あんたはどこが悪いんだね?
グーグー  肺尖カタル。何でもないよ。肺炎の軽い奴さ。大したことはねえや。
バール  (ボルボルに)あんたは?
ボルボル  胃潰瘍でさあ。どうってこたあねえ。
バール  (乞食に)多分、あんたもどこか悪いんでしょう?
乞食  俺は頭が悪いのさ。
バール  乾杯! さあ、これで知り合いになった。俺は丈夫だぜ。

100 :名前なし:2009/11/22(日) 01:42:28 ID:k4VU/OdI
乞食  わしはな、自分が丈夫だと思い込んでいた人物を知っていた。自分でそう思っていたんだよ。
     森で生まれたその男は、ある時また森へ戻ってきた。というのはある考え事があったからだ。
     そいつは、森が自分とは酷く縁遠くなったような気がした。何日も彼は歩いた。荒野に分け入った。
     自分がどれだけ何も頼らずにいられるか、自分にどれくらい耐える力があるかを、知りたかったのさ。ところがたいしてもちやしなかったぜ。(飲む)
バール  (いらいらして)この風ときたら! 今夜のうちにでも出かけなくちゃならないぜ、エーカルト。
乞食  そう、風だよ。ある晩、黄昏時にその男がもう孤独を感じなくなった時奴は木々の間の
     ひっそりとした静けさの中に分け入って行った。そして、一本の大きな木下で立ち止まったんだ。(飲む)
ボルボル  奴は猿のような木がしてきたのか。
乞食  そうさ、奴は猿になったんだ。そいつは木に寄り掛かって、木の中の生命を感じたんだ。そう思っただけかもしれない。そしてこう言ったのだ。
     「お前は俺よりも高く、しっかりと立っている。お前は地面の奥底まで知っている。
     そして地面はお前をしっかり支える。俺は走ったり、お前よりもうまく動ける。
     だが、俺はしっかと立ってはいない。深い所も知らない。そして、何も俺を支えてはくれない。
     それにまた、無限の空にのびる梢の彼方の、大きな静けさも俺には分からない」(飲む)
グーグー  木は何て答えた?
乞食  そう、風が吹いていった。木が震えおののいた。そいつはそう感じたのさ。
     それで奴は地面に身を投げ、ごつごつした固い根に抱きついて辛い涙を流したとよ。奴は、たくさんの木に同じ事をしたんだ。
エーカルト  それで奴は丈夫になったのか?
乞食  いや、楽に死んでいったよ。
マヤ  あたしには分からないね。
乞食  人間には分かるなんてことはねえ。でも感じることはできる。自分の分かっている話でも喋るとなるとうまくいかないさ。
ボルボル  お前、神様は信じているか?
バール  (大儀そうに)俺は、いつも、俺自身を信じているさ、でも無神論者にもなれるぜ。

101 :名前なし:2009/11/22(日) 01:43:43 ID:k4VU/OdI
ボルボル  (げらげら笑う)こいつは面白いぜ! 神様! シャンパン! 愛! 風に! 雨ときた! (マヤをつかまえる)
マヤ  離しな! あんた口が臭いよ!
ボルボル  お前は梅毒もちじゃねえのか?

(膝の上に彼女を座らせる)

乞食  気をつけな! (ボルボルに)俺はだんだん酔っぱらってきた。俺が酔い潰れちまったら、お前、今日、雨の中を出て行くわけにはいくめえ。
グーグー  (エーカルトに)あいつは昔はいい男だったんだよ。それであの女を手に入れたんだ。
エーカルト  それにあんたは精神的に優れていたのか? すごく精神的な人間だったっていうのか?
グーグー  あの女はこんなじゃなかった。まだとっても純真だったんだ。
エーカルト  それなのにあんたはどんなことをやらかしたんだ?
グーグー  俺は恥ずかしかったぜ。
ボルボル  聞け! 風だ! 風が神に安らぎを願っているぜ。
マヤ  (歌う)

ねんねんころりよ、外は風だよ、
でもあたしたちはぬくぬくとして
酔っ払っていられる。

バール  この餓鬼は何だ?
マヤ  私の娘ですよ、旦那。
乞食  こいつは悩める処女マリア様よ。
バール  (飲む)それは昔のことよ、そうさ、昔は素晴らしかったな。エーカルト。
エーカルト  何が?
ボルボル  そいつは、昔のことなんか忘れちまってるさ。
バール  昔のことか、こいつは何て妙な言葉なんだ。
グーグー  (エーカルトに)一番素晴らしいのは、虚無ってやつよ。
ボルボル  しっ! これからグーグーの独唱だ。ウジのエサが歌うってよ。

102 :名前なし:2009/11/22(日) 01:45:23 ID:k4VU/OdI
グーグー  太陽なんてやつは、夏の夕暮れに震える大気のようだ、虚無ってやつは震えもしない、全くの無だ。
       要するに何もかもやめちまうのさ。風がすぎて行く。それでも凍えない。雨が降る。それでも濡れない。
       誰かが冗談を飛ばしても一緒に笑いもしない。腐敗していくんだ。待つ必要もない。ゼネストさ。
乞食  そうよ、パラダイスよ。希望はみんな満たされる。誰も希望などもっていないからな。
     一切のことから手を引く。希望からも手を引く、そこで全く自由になるんだ。
マヤ  それでお終いにはどうなるの?
グーグー  (にやりと笑う)何もありやしない、虚無よ。お終いなんかない。永遠に何もないんだ。
ボルボル  アーメン。
バール  (立ち上がり、エーカルトに)エーカルト、立て! 俺たちは人殺しどもの中に迷い込んじまったぜ。
      (エーカルトの肩を叩く)うじ虫どもが偉そうな面をしている。もう今にも腐りそうなのにな。うじ虫どもが歌ったり、自慢し合っていやがるんだ。
エーカルト  お前がそんな風になったのはこれで二度目だ。飲んだだけでこんなことになるかな。
バール  ここじゃはらわたがさらけ出されている。ここは砂風呂じゃないらしいぜ。
エーカルト  座れ! たっぷり飲め! 温まるんだ!
マヤ  (少し酔って、歌う)

夏も冬も、雨でも雪でも---
酔ってさえいれば、悲しくはないさ。

ボルボル  (マヤを抱いて、喚く)お前の独唱を聞いているとむずむずしてくるぜ。グーグー坊や……よちよち、マヤちゃん。

(子供、泣く)

103 :名前なし:2009/11/22(日) 07:10:31 ID:k4VU/OdI
バール  (飲む)あんたは何者だ? (苛立たしげにグーグーに向って)
      あんたの名前はウジのエサっていうんだったな。それじゃ、やがて死体になるわけだな。乾杯! (座る)
乞食  気をつけろ、ボルボル! シャンペンってやつは、あんまりわしには向かないな。
マヤ  (ボルボルにそっと寄り添って、歌う)

小さなお目目じゃ、何も見えぬ
さあ、おねんねおし、もう夢の中

バール  (残忍に)

お前は流れ下る、髪に巣食うネズミと共に
その上の空は相変わらず不思議な空だった

(グラスを手に持って立ち上がる)

空は黒い。お前、なぜびっくりするんだ? 

(テーブルを叩く)人は回転木馬を我慢しなくちゃならない。それは大したことだぜ。

(千鳥足で歩く)俺は象になりたいぜ、面白くない時にサーカスの最中に小便をたれる象にな! 

(踊りだして、歌う)風と踊れ、憐れな屍どもよ! 雲と眠れ、堕落した神よ!

(彼はよろめきながら、テーブルの方に来る)

エーカルト  (酔って、立ち上がっている)俺はもう、お前なんかとは一緒に行かないぜ。
        俺だって魂はある。お前は俺の魂を台無しにしやがったんだ。
        なんでもかんでもぶち壊しにしやがったんだ。俺は、またミサの作曲に取り掛かるぞ。
バール  俺はお前が好きだぜ。乾杯!
エーカルト  でも俺は、お前と一緒には行かないぞ。(座る)

104 :名前なし:2009/11/22(日) 07:12:05 ID:k4VU/OdI
乞食  (ボルボルに)手をどけな、助平!
マヤ  あんたとは関係ないよ。
乞食  静かにしたらどうだ。憐れな奴らめ!
マヤ  気違い、あんたはキ印だよ。
ボルボル  (毒々しげに)ペテンだぞ! 病気でも何でもないくせに。そうよ! これはまさにペテンだ。
乞食  そういうお前は、癌だとでもいうのか?
ボルボル  (不気味に落ち着いて)俺が癌だと?
乞食  (意気地なく)俺は別に何も言いやしないぜ。そんなこと気にするなよ!

(マヤ、笑う)

バール  こいつ、どうして泣いていやがるんだ? (よろめきながら箱の方に行く)
乞食  (怒って)お前、そいつをどうしようというんだ?
バール  (箱の上に身を屈めて)なぜ泣くんだ? まだ目が見えないのか? それとも何かを見ては泣くのか?
乞食  放っておいてやりな! (バールに自分のグラスを近づける)
マヤ  (飛び上がって)下司!
ボルボル  奴は、この女のスカートの下ばかりのぞこうとしやがる。
バール  (ゆっくりと立ち上がる)ああ、助平ども! お前たちは、もう人間的なものをまるでなくしてしまっている。
      来い、エーカルト、川で体を洗おうぜ! (エーカルトと共に去る)

105 :名前なし:2009/11/22(日) 07:13:15 ID:k4VU/OdI
緑の茂み 下方に川


(バール、エーカルト)

106 :名前なし:2009/11/22(日) 07:14:18 ID:k4VU/OdI
バール  (茂みの中に座っている)温かい水だ。砂の上に転がっているとえびみたいだ。それに、木々の梢、空には白い雲だ、エーカルト!
エーカルト  (隠れたままで)何をしようってんだ?
バール  俺はお前が好きだ。
エーカルト  こうやって寝ているに勝る楽はないぜ。
バール  さっきの雲を見たか?
エーカルト  ああ、破廉恥な格好の雲だったな。(沈黙)さっき、あそこを女が通ったぜ。
バール  俺はもう女なんか欲しくない……

107 :名前なし:2009/11/22(日) 07:30:56 ID:k4VU/OdI
田舎道 柳の木


(風。夜。エーカルトが叢で眠っている)

108 :名前なし:2009/11/22(日) 09:56:15 ID:k4VU/OdI
バール  (酔ったように服をはだけ、夢遊病者のように草原を歩いて来る)エーカルト! エーカルト! 出来たぞ! 起きろ!
エーカルト  何が出来たんだ? また寝言を言ってやがるのか。
バール  (彼のわきに座る)こうだ。

溺れ死んだ娘の骸が
小川から大河へ流れ下って行った時、
空は妖しくオパール色に輝いた
亡骸を慰めるかのように
水車や藻にまとわりつかれて
彼女の体は次第に重くなり
足には魚が冷たく戯れ
藻や魚が骸の船脚をもっと遅くした

そして空には夕べには煙のように暗く、
夜には星の光を称えた。
だが早くから夜が明けて明るくなった、
死人にも
夜と昼の区別はあるように。

色褪せた骸は腐る。
神様も少しずつ娘を忘れていく。
まず顔、そして手が、ついには髪が腐る。
そして彼女はたくさんの塵芥と一緒に藻屑となる。

(一陣の風)

109 :名前なし:2009/11/22(日) 09:57:27 ID:k4VU/OdI
エーカルト  今頃になって幽霊が出歩き始めたのか、なあに幽霊だってお前よりは恐ろしくはねえ、
        せっかくの眠りが台無しよ、柳の木々の間でまた風がオルガンを鳴らしている。
        俺たちの素敵な生涯の最後まで残るものは瞑想と暗闇とお湿りという白い乳房だけだ、
        年をとった女にいつまでも千里眼だけは残るように。
バール  こんな風だと焼酎はなくてもこんなに酔い心持だおぼろげな光の中でこの世界を見ると世界って奴は神の排泄物だな。
エーカルト  まさにそうさ。小便の管と生殖器がくっついているということでその特徴がすっかり言い尽くされちまう神様のな。
バール  何もかもが美しい。

(風)

エーカルト  柳の木は、空にぽっかりあいた真っ黒な口に並ぶ、腐った虫歯のようだ---俺はこれからすぐにでもミサの作曲に取り掛かるぞ。
バール  弦楽四重奏曲はもう出来上がったのか?
エーカルト  俺にそんな時間があると思うのか?

(風)

バール  赤毛の青白い女につきまとわれちゃな。お前はあいつをどこへでもご同伴じゃないか。
エーカルト  彼女は柔らかくて白い体をしているんだ。昼になると、その体で柳の木陰に入り込んでくる。
        髪のように垂れ下がった枝の茂みの中で、その中で俺たちはリスのようにやるんだよ。
バール  その女は俺よりも素晴らしいのか?

(暗闇。風がうなり続ける)

110 :名前なし:2009/11/22(日) 09:58:13 ID:k4VU/OdI
若いハシバミの茂み


(垂れ下がった長い赤い枝。その中にバールが座っている。真昼時)

111 :名前なし:2009/11/22(日) 09:59:24 ID:k4VU/OdI
バール  彼女を満足でもさせてやるか、白い鳩ぽっぽを……(その場所をじっと見つめる)
      ここからだと、柳の枝越しの雲の眺めが素晴らしいことだろう。……ところが奴は女の肌ばかり眺めてやがる。
      俺は奴のそういう色事にはつくづく嫌気がさした。おっと、静かにしてなくちゃな。

(若い女、茂みから出てくる。赤毛で、肉付きよく、青白い)

バール  (見向きもしないで)君か。
若い女  あなたのお友達は?
バール  奴は変ホ短調ミサを作曲中だよ。
若い女  私が来たって、言ってちょうだい!
バール  奴はネズミみたいな顔をしているよ。オナニーしやがってね、動物学に本卦帰りしたようだぜ、座ったらどうだい?

(辺りを見回す)

112 :名前なし:2009/11/22(日) 10:00:17 ID:k4VU/OdI
若い女  立っていた方がいいわ。
バール  (柳の枝の側で、のび上がって)近頃奴は、卵を食べ過ぎたな。
若い女  私、彼を愛しているわ。
バール  君は俺とは全く関係がないさ!

(彼女を捕まえる)

若い女  触らないで! 汚らしい。
バール  (ゆっくりと、彼女の咽喉に手を伸ばして)これが君の首か? 知っているか、どうやって鳩やアヒルを潰すのか。
若い女  助けて! 放っておいてったら!
バール  腰が抜けているのにか? もうひっくり返っちまったじゃないか。
      柳の間に寝かせてもらいたいんだろう。男なら相手が誰だってやることは同じさ。(彼女を抱きしめる)
若い女  (震える)お願い、離して! お願い。
バール  恥知らずの小鳥め! さあよこしな! いくらあがいても無駄だぜ! (彼女を両腕に抱きかかえて茂みの中に引きずり込む)

113 :名前なし:2009/11/22(日) 11:09:31 ID:k4VU/OdI
風に揺れる楓の木 雲のある空


(バールとエーカルト、木の根の間に座っている)

114 :名前なし:2009/11/22(日) 11:10:33 ID:k4VU/OdI
バール  どうしても飲む必要あがる、エーカルト、金はまだあるか?
エーカルト  ない。なあ、風に揺れる楓を見ろよ!
バール  震えている。
エーカルト  お前が酒場中連れ歩いていたあの娘は、どこにいるだろうな。
バール  魚にでもなって探すんだな。
エーカルト  お前は意地が汚すぎるぞ。そのうちパンクしちまうぞ。
バール  自分で破滅の音を聞きたくないもんだな。
エーカルト  水が黒くて、深くて、その上魚もいないなら川なんかのぞいてはいけない。
        落ちないようにしろよ! 注意しなくちゃいけない。お前はやたらに重いんだからな、バール。
バール  俺は他人って奴ならどんな相手だって気をつけているさ。詩を作った、聞きたいか?
エーカルト  読め。そうすれば、お前って奴が分かる。

115 :名前なし:2009/11/22(日) 11:11:44 ID:k4VU/OdI
バール  『森の中の死』って言うんだ。

一人の男が千古の密林で死んだ。
嵐と奔流が彼の周りでうなりをあげた。
けもののように木の根に爪を立て
数日前から嵐が吹き抜けていく森の
遥かな高い梢を見上げたまま死んだ。

死ぬ前に仲間の男たちが彼を取り巻いて立っていた
彼らは言った、奴も静かになるだろう、
さあ仲間、お前を担いで家へ帰ってやろう、と。
ところが男は膝で奴らをつきのけ
唾を吐いていった、どこへだ?
なぜって奴は故郷も大地ももたなかったから。

お前の口にはあと何本歯が残っているのか?
他の所はどんな具合だ、見せてみろ!
死ぬならもっと大人しく死ね、そんなにふてくされるな!
昨日の夜、俺たちはお前の乗る馬は食っちまったぞ。
なぜお前は早く地獄へ行きたがらないのだ?

彼と男たちを取り巻く森は吠え立てていた。
男たちは彼が木に縋りつくのを見た、
自分たちに向って叫ぶ声を聞いた。
そしていまだかつて覚えぬ恐怖にとらわれて
ふるえながら彼らは拳を固めた。
こいつだって自分らとかわらぬ男だったから。

役立たず、気違い、けだものだ、お前は!
膿だ、屑だ、ぼろの山だよ!
俺たちの空気まで貪欲に盗み取る野郎だ、
そう彼らは言った、すると腫れ物である彼は言った。
俺は生きたい、お前たちの太陽をむさぼりたい!
そしてお前たちのように光を浴びて馬を乗り回したい!

116 :名前なし:2009/11/22(日) 11:12:43 ID:k4VU/OdI
これこそ友人たちの誰も理解できぬことだったので
男たちはそこで身震いし、吐き気がして黙ってしまった。
大地は彼の剥き出しの手を取って支えてやった。
海から海へ渡る風の中に土地がある。
その底で俺は静かに横たわりたい。

そうだ、みじめな生の有り余る過剰が
彼をこれほど支えたのだ、
腐肉となっても彼が自分の死体で大地を押し付けるほどに。
朝まだきかれは黒い草の中に倒れて死んだ
男たちは吐き気をもよおしながら憎しみを込めて
彼を木の下枝もとに葬った。

そして男たちは黙ったまま茂みを出て馬を走らせた。
そして遠くから奴を埋めた木の方を振り返ってみた、
奴は死ぬことはよっぽど辛いらしかった、
木の梢は光に満ち溢れていた。
そして彼らは若々しい顔に十字を切り
太陽と草原の中に馬を馳って行った。

エーカルト  そう、そうとも。多分もうそこまで落ちてしまったのだ。
バール  夜、眠れないと、俺は星を見つめる。それがちょうどこうなんだよ。
エーカルト  そうか?
バール  (不信げに)でも、しょっちゅう見やしないさ。こんなことばかりしていたら弱っちまうよ。
エーカルト  (しばらく間をおいて)近頃お前はやたらに詩を作ったな。多分長いこと女気なしだったんだろう?
バール  なぜだ?
エーカルト  そう思っただけだよ。違うって言うのか。

(バール、立ち上がり、背伸びをして、楓の木を見つめ、笑う)

117 :名前なし:2009/11/22(日) 11:13:44 ID:k4VU/OdI
居酒屋


(夕暮れ。エーカルト、女給、ヴァツマン、ヨハネス、彼はハイカラーの上に、よれよれの上着を着て、
みすぼらしく救いようのないほど落ちぶれている。女給はゾフィーに似た容貌をしている)

118 :名前なし:2009/11/22(日) 12:34:25 ID:k4VU/OdI
エーカルト  もう八年だな。

(みんな、飲んでいる。風が吹き過ぎる)

ヨハネス  人生が二十五で始まるんだったらなあ。ところが二十五になればみんな腹が出てきて子供まであるんだからな。

(沈黙)

ヴァツマン  バールのおふくろが、昨日死んだんだ。奴は埋葬の金を借りるのに走り回っている。
        その金を持ってやって来るぜ。そうしたらおふくろの香典で俺たちの飲み代も払ってくれるさ。
        ここの亭主は真っ当な男だ。かつておふくろであった死体を担保にして、つけで飲ませてくれるんだからな。(飲む)
ヨハネス  バールめ! もうあいつの帆は風を受けることもないだろう。
ヴァツマン  (エーカルトに)あんただってずいぶん我慢をしてきたんだろう。
エーカルト  あいつの面に唾を吐きかけるわけにはいかないさ。今は落ち目なんだから。
ヴァツマン  (ヨハネスに)お前はそれが悲しいか? 気になるかい?
ヨハネス  俺は可哀想な奴だと言っているのさ。(飲む)

(沈黙)

119 :名前なし:2009/11/22(日) 12:35:43 ID:k4VU/OdI
ヴァツマン  あいつ、ますます反吐の出そうな奴になってきたな。
エーカルト  そんなことを言うな。聞きたくない。俺はあいつが好きなんだ。俺はあいつをちっとも悪く思っていない。
        あいつが好きだからな。あいつは子供みたいな奴なんだ。
ヴァツマン  あいつは自分のことだけしかやらない。酷い怠け者だ。
エーカルト  (ドアの方へ行って)穏やかな夜だ。風が生温い。ミルクのようだ。俺は一切のものを愛する。
        酒なんか飲むもんじゃないな。ともかく深酒はいけない。(テーブルに戻って)穏やかな夜だ。
        これから秋に入ってあと三週間くらいは屋根がなくても暮らせるな。(座る)
ヴァツマン  お前、今夜、言ってしまうのか? いい加減にあいつを厄介払いしたいだろう。もううんざりしたろうが?
ヨハネス  気をつけた方がいいぞ!

(バール、ゆっくりと戸口から入って来る)

ヴァツマン  お前か、バール?
エーカルト  (厳しく)お前また何をする気だ?
バール  (入って来て座る)この店もみっともない穴倉になったな。(女給が焼酎を持って来る)
ヴァツマン  ここは少しも変わっていない。ただお前が前より上品になったってことらしいぜ。
バール  お前、まだいたのか、ルイーゼ?

(沈黙)

120 :名前なし:2009/11/22(日) 12:37:25 ID:k4VU/OdI
ヨハネス  ああ、ここは気持ちがいい。要するに飲むことだ、うんと飲まなくちゃ。俺は飲めば強くなるんだ。
       ナイフの刃波をくぐっても平気になる、地獄行きでも結構だぜ。しかしどこか違うな、
       そう、膝の力が抜けて、崩れ落ちるみたいな感じ、そうなんだ、無抵抗にすーっといく! 
       ナイフに刺されたなんて気はしない。膝のバネがきいているからな。
       いずれにしても、昔はこんな奇妙なことなど考えたこともなかったんだ。
       ブルジョア的な環境でぬくぬくと暮らしていた時はな。
       自分が天才になった今始めて、こんな考えが浮かぶようになったんだ。うん。
エーカルト  (急に叫びだす)俺はまた森に行きたい。木々の幹の間には、光がレモン色に輝いている。俺はまた山奥の森に入って行きたい。
ヨハネス  ああ、俺にはその気持ちは分からないな。バール、あんたにはもう一杯追加分を払って貰うぜ、ここはとても気持ちがいい。

(風が吹き過ぎる。彼らは飲む)

ヴァツマン  (口ずさむ)

てっぺんで首を吊るにしろ
根元でくたばるにしろ---
木は山ほどあるんだ
木陰も万人共有だ。

バール  そんなことがあったのはどこだった? 確かあったな、そんなことが。
ヨハネス  彼女はずっと流れつづけている。誰も彼女の亡骸は見つけなかった。
       いいか、時々俺は、まるで彼女が俺の飲むブランデーといっしょに俺の咽喉を流れ下っていくような気がしてくる。
       腐りかけた小さな屍だ。彼女は十七だった。彼女の緑の髪には、ネズミと藻が絡みついている。
       結構よく似合うんだ。ちょっと水脹れして、白くなり、体の中は皮の泥が詰まって真っ黒だ。
       彼女はこんなに純潔だ。だからこそ、川に身を投げて厭な臭いをたてるようになったのさ。

121 :名前なし:2009/11/22(日) 12:38:41 ID:k4VU/OdI
ヴァツマン  肉体とは何か? 精神と同じように崩壊するものだ。諸君、俺は完全にへべれけだ。2×2=4。
        とすると俺は酔っていない。俺は天上の世界について予感している。諸君、頭を下げたまえ。謙虚であれ。
        アダムなんぞお払い箱だ。(震えながら激しい勢いで飲みまくる)俺はこの予感を持つ限り、まだ全く堕落しているとは言えない。
        まだちゃんと計算もできるんだ。2×2=……ええと、この2ってのは……にってやつは、何と滑稽な言葉であろうか! 二!
バール  (ギターに手を伸ばし、それでランプを叩き壊す)歌うぞ。(歌う)

日に灼かれ、雨に蝕まれ
乱れた髪に詩人の冠
彼は青春を忘れた、でも夢だけは
彼は屋根を忘れた! でも空だけは忘れなかった。

(語る)俺の声は、鏡のように澄み切ってはいないな。

(ギターのチューニングをする)

エーカルト  続けろ、バール!
バール  (歌い続ける)

おお、天国からも地獄からも追放された者たち!
あまたの迫害を受けた、人殺したち!
なぜおふくろの胎から出てきたのだ?
あそこなら静かに眠っていられたのに……

(語る)ギターのチューニングが合っていない。

ヴァツマン  いい歌だ。俺にぴったりだ! ロマンチックだ!

バール  (歌い続ける)

おふくろにも忘れ去られて
だが彼は、アブサンの海の中に
住みいい国を求める、絶え間なく
苦笑し、呪いつつ、時には涙を浮かべ。

ヴァツマン  俺のグラスが見つからなくなった。このテーブルは馬鹿にがたがただな。明かりをつけてくれ。手前の口のありかも分からない。
エーカルト  馬鹿らしい。見えるか。バール?
バール  いや、俺は見たくない。暗闇は美しいのだ。俺の体にはシャンペンがみなぎり、思い出のない郷愁に溢れている。お前は俺の友達か、エーカルト?
エーカルト  (気難しく)そうだ。さあ、歌え!

122 :名前なし:2009/11/22(日) 12:39:45 ID:k4VU/OdI
バール  (歌う)

踊りつつ地獄を彷徨い、天国では咎うたれ
溢れるような光を飲み込み
時には小さな草原を夢見る
彼の持つものは頭の上の空だけ。

ヨハネス  君とはずいぶん長いこと一緒にいるな。俺を連れて行ってくれてもいいぜ。俺はほとんど飯を食べないよ。
ヴァツマン  (苦労して明かりをつける)聖書曰く「光あれ」さ。へっへっへっ。
バール  まぶしいぞ。(立ち上がる)
エーカルト  (女給を膝に乗せたまま、辛うじて立ち上がり、首から女の腕を外させようとする)一体どうしたんだ? 何でもないじゃないか、馬鹿馬鹿しい。

(バール、飛びかかろうと身構える)

エーカルト  お前、まさかあんな女に嫉妬しているんじゃあるまいな?

(バール、前の方を手探りする。杯が落ちる)

エーカルト  なぜ俺が女を持っちゃいけないんだ?

(バール、彼を凝視する)

エーカルト  俺は、お前の恋人か?

(バール、彼に飛び掛って、首を締める。明かりが消える。ヴァツマンの泥酔した笑い。
女給が悲鳴をあげる。他の客たちが、隣の部屋からランプを持って入って来る)

ヴァツマン  こいつ、ナイフを持っているぞ。
女給  この人、殺してしまうわ。マリア様!
二人の男たち  (争っている二人に飛び掛って)畜生、おい、離れろ! 野郎刺したぞ、何てことだ!

バール  (身を起こす。ランプが消え、急に夕闇が迫ってくる)エーカルト。

123 :名前なし:2009/11/22(日) 13:36:25 ID:k4VU/OdI
グリニッジ東経一〇度


(森。バール、ギターを肩にかけ、両手をポケットに突っ込んで、遠ざかりながら)

124 :名前なし:2009/11/22(日) 13:37:25 ID:k4VU/OdI
バール  黒い木々の間を吹く、青ざめた風! 木々は狼の濡れた毛皮だ。十一時ごろになれば月が出る。
      そうすりゃ結構明るいぞ。ちっぽけな森だな。俺は大きな森に入って行くんだ。
      また一人に戻って、身一つになってからは、俺は、足を腫らして逃げ回っているってわけだ。
      北に道をとるといいな。そうだ、木の葉の裏側を向いている方向に行こう。
      下らん事件などきれいさっぱり捨てなきゃな。さあ、行こう!

(歌う)

星空でバールの死体を狙っている
肉付きのよい禿鷹をバールはちらちらと見上げる。

(遠ざかりながら)

バールは時折死んだふり。禿鷹が矢のように舞い降りると
バールは黙々と夕餉に禿鷹を賞味する。

(一陣の突風)

125 :名前なし:2009/11/22(日) 13:38:14 ID:k4VU/OdI
田舎道 夕暮れ 風 にわか雨


(二人の武装警官が、風をついて歩いて来る)

126 :名前なし:2009/11/22(日) 13:39:27 ID:k4VU/OdI
武装警官1  黒い雨と、この十一月の万聖節の風ときたら! あの忌々しいごろつきのおかげでな!
武装警官2  どうやらあいつは北の森の方へ逃げ込んだな、あそこに逃げ込まれたら、もう誰にも見つけられないぞ。
武装警官1  一体どんな男なんだ?
武装警官2  何よりもまず、人殺しだ。始めは寄席芸人で詩人、それからメリーゴーランドの持ち主で、
        木こりで、女億万長者の情夫になり、女のひもでぽん引きだった。
        人を殺した時、居合わせた連中が奴を捕まえたが、奴は象のような力持ちだった。
        その殺人っていうのが、女給のせいさ。札付きの淫売さ。
        その女のために、奴は一番の幼友達を殺しちまったんだ。
武装警官1  そういう人間には、心ってものがないんだ。野獣の類だな。
武装警官2  なのに奴は子供のような所があるんだ。どこかの婆さんの手伝いをして薪を担いでやっていたので、
        もう少しで逮捕できるところだった。あいつは他に何も持ってなかったんだな。
        その女給ってやつが奴に残された最後のものだったのさ。だから自分の親友さえ殺しちまったんだ。
        もっとも、そいつも奴と同様いかがわしい奴だったがな。
武装警官1  どこかで焼酎か女でも、手に入らないかなあ! 行こうぜ、ここは気味が悪いぜ。あそこで何か動いているぞ。(両人、去る)
バール  (小さな包みとギターを持って、茂みから出て来る。歯で口笛を吹いて)
      じゃあ、死んだのか? 可哀想な奴! 俺の邪魔をしたからさ! 面白いことになりそうだ。

(両人の後を追う。風)

127 :名前なし:2009/11/22(日) 13:40:19 ID:k4VU/OdI
森の中の丸太小屋


(夜。風。汚らしいベッドの上にバール。男たちがカルタをしながら、飲んでいる)

128 :名前なし:2009/11/22(日) 16:47:37 ID:gq2B8HHO
一人の男  (バールの側で)どうする気だ? お前はもう虫の息なんだ。そりゃ子供にだって分かるぜ。
        それに、もうお前を構う奴もいない。身内でもあるのか? いない、そうだろう! 歯を食いしばるんだ! 
        まだ歯があるんだろ? 時々にはまだ楽しみに事欠かない奴が時には若い身空で野垂れ死にすることがある。
        金も億万も持っているのにな。でもお前は札なんて持ってないよな。でも心配するな。世界は転がりつづける。
        球のように、丸い世界はな。明日の朝には、風が吹くぞ。もっと落ち着いて考えてみろ。
        そして今ネズミがくたばる所だと考えるんだな。それが何よりさ。じたばたしなさんな。もう歯もないんだから。
男たち  まだ土砂降りか? 今夜は死体と一緒にすごさなくちゃならないことになる。黙ってろ! 切り札だ! 
      まだ息をしているのか、デブ? 歌えよ! 「おふくろの白い子宮の中で」……あいつは放っておけ! 
      黒い雨がやむより前に冷たくなってるぜ。トランプを続けろ! 奴は底なしに飲みやがったな。
      でも、あの青膨れの肉の山を見ていると、自分のことが気になってくる。
      こいつもこんなざまになろうとは夢にも思わなかったろう。クラブの十だ。口をつぐんでもらいたいな。
      そりゃ八百長だぞ。真面目にやらないと勝負にならないじゃないか。(沈黙。罵りの言葉だけが続く)

129 :名前なし:2009/11/22(日) 16:48:47 ID:gq2B8HHO
バール  何時だ?
一人の男  十一時。お前、出て行く気か?
バール  そのうちよ、道は悪いか?
一人の男  雨だ。
男たち  (立ち上がる)雨が上がったぜ。もう時間だ。またぐしょ濡れになるぜ。この野郎にはもう何もする必要がないんだからいいさ。

(彼らは斧を取り上げる)

男1  (バールの前に立ち止まって、唾を吐く)お休みよ、あばよ、お前、くたばるんだろう?
男2  野垂れ死にか、名前もなしで。
男3  いやな臭いをたてるのは明日まで待ってくれ。俺たちは昼間で伐採をやってそれから飯を食うんだから。
バール  もう少し、ここに残っていてくれないか?
一同  (大声で笑い出して)俺たちにママの代わりをさせようってのか? 辞世の句でも残したいのか? 懺悔でもする気か、アル中? 一人じゃ唾も吐けないだろう?
バール  もう三十分、ここにいられないかね。
一同  (大声で笑い転げる)分かるか、お前は一人でくたばるんだ! さあ行こうぜ! 風もおさまった。お前、どうした?
一人の男  俺、後から行くぜ。
バール  ほんのしばらくのことだ、なあ、みんな。(笑い声)あんたたちだって、一人で死ぬのはいやだろう、なあ! (笑い声)
別の男  女々しいぞ! こいつを、記念にやるよ! (彼の顔に唾を吐きかける。みんな、ドアの所に行く)
バール  二十分でいい! (男たち、ドアを開けて去る)

130 :名前なし:2009/11/22(日) 16:49:55 ID:gq2B8HHO
一人の男  (ドアの下で)星だ。
バール  唾を拭いてくれ。
一人の男  (彼に)どこだ?
バール  額だ。
一人の男  ほらよ、なぜ笑うんだ?
バール  いい味だ。
一人の男  (腹を立てて)お前は、もう、すっかり片がついたんだ。あばよ! (斧を持って、ドアの所へ行く)
バール  ありがとう。
一人の男  まだなにかしてもらいたいか? 俺は仕事に行くんだ。十字架をやろう、死骸のお前にな。
バール  おい! もっと近くへ来い! (一人の男、身を屈める)とても素敵だった……
一人の男  何だって、気違いの雌鶏野郎め、お前なら去勢鶏ってとこだな!
バール  何もかもがな。
一人の男  お上品な食道楽野郎だな! (げらげら笑って去る。ドアは開いたまま。青い夜が見える)
バール  (不安げに)おい! お前!
一人の男  (窓越しに)ふうん?
バール  行くのか?
一人の男  仕事だ。
バール  どこへ?
一人の男  お前とは関係ないぜ。
バール  何時だ?
一人の男  十一時十五分。(去る)

131 :名前なし:2009/11/22(日) 16:51:10 ID:gq2B8HHO
バール  あいつまで行っちまいやがった。

(沈黙)

一、二、三、四、五、六、数えても駄目だ。

(沈黙)

ママ! エーカルトめ、消え失せろ。空が酷く近づいてきたぞ。手に取れるほどだ。酷くびしょ濡れだ。
眠ろう。一、二、三、四。でも、ここじゃ息が詰まりそうだ。外の方がきっと明るいぞ。外へ出よう。
(体を起こす)出てやるぞ。なあ、バール。(鋭く)俺はくたばっていくネズミじゃない。外は明るいはずだ。
なあ、バール。戸口までは何とか行き着いてやるぞ。膝ってやつがあるからな。戸口のほうがまだましだ。
畜生! バール! (四つん這いで敷居の方へ這って行く)星だ……うん。(外へ這い出す)

132 :名前なし:2009/11/22(日) 18:03:28 ID:gq2B8HHO
明け方の森


(木こりたち)

133 :名前なし:2009/11/22(日) 18:05:06 ID:gq2B8HHO
木こり1  焼酎をよこせ! 小鳥のさえずりを聞いてみろ!
木こり2  暑い日になるぜ。
木こり3  まだ山ほどあるぜ、晩までに切り倒してしまわなくちゃいけない木がな。
木こり4  あの男も今頃は冷たくなっているだろうな。
木こり3  そうとも。今頃は冷たくなっているさ。
木こり2  そうよ、そうともよ。
木こり3  奴に食われちまってなければ、卵があったんだがな。卵を盗むなんて大したものだ! 
      始めのうちは可哀想にも思ったが、そのうち頭に来るようになった。
      でも、ありがたいことにこの三日は焼酎のありかを嗅ぎ付けなかったな。
      惨めなものさ! 死体の腹には卵が入っているぞ!
木こり1  奴はどぶ泥の中に平気で寝転がったものだ、そして横になったが最後、決して立ち上がらなかったな。
      奴は自分でもそれを知っている。奴はまるで専用ベッドに転がっているように起きなかったものな。
      誰かあいつを知っている奴はいるか? 名前は何というんだ? これまで何をしていやがったんだ?
木こり4  埋めてやらなきゃいけないな。おい、俺にも焼酎をくれ。
木こり3  奴が咽喉をごろごろやりだしたとき、聞いてみたんだよ、お前は何を考えてるんだって。
      俺は人が何を考えているのかすぐ聞きたくなるんだ。そうしたらあいつ、言いやがったぜ、
      俺は雨の音を聞いているんだってな。背筋が寒くなったぜ、雨の音を聞いているんだってあいつは言ったんだ。

134 :ゼロタロウ:2009/11/25(水) 08:49:40 ID:Y6M1LX65
こいつは…たまげた
知らぬまにスクリプトが!全部、読むのに時間かかりそう


124 KB
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

★スマホ版★ 掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50

read.cgi ver 05.04.00 2017/10/04 Walang Kapalit ★
FOX ★ DSO(Dynamic Shared Object)